孫子を学ぶ 始計篇

投稿者: | 2020年12月15日

これは孫子を学ぶ私的メモと意訳です。まずは始計篇。始計篇では戦争が始まる前の準備段階について書かれています。

孫子曰、兵者国之大事、死生之地、存亡之道。不可不察也。

孫子曰く、兵は国の大事であり、生き死にが大きく関わり、国の存亡に関わるため、よくよく考えて行うべし。

よって、戦争をするかしないかを決めるために、まずは道、天、地、将、法の五事についてしっかり調査を行い国力を比較する必要があります。

道者、令民与上同意也。故可以与之死、可以与之生、而不畏危。天者、陰陽、寒暑、時制也。地者、遠近、険易、広狭、死生也。将者、智、信、仁、勇、厳也。法者、曲制、官道、主用也。凡此五者、将莫不聞、知之者勝、不知之者不勝。

道とは民と君主の意識のことで、これが同じであれば民は危険を畏れずに死ぬときも生きるときも一緒にがんばってくれる。

天とは陰陽(天候など)、寒暑(暑さや寒さなどの季節)、時制(時間的条件)のことである。

地とは戦いを行う場所の条件で遠近(距離)、険易(道程)、広狭(地形の広さや狭さ)、死生(地形の有利不利)のことである。

将とは将軍のことで、智(聡明さ)、信(主君や部下からの信用)、仁(思いやりや慈しみ)、勇(勇ましさ)、厳(厳格さ)が備わっているかということである。

法とは曲制(軍の編成)、官道(軍の職責)、主用(兵站)のことである。

この五事は将軍なら誰でも聞いたことがあることだが、この五事を把握していれば戦いに勝利し、把握できていなければ敗北する。

故校之以計、而索其情。曰、主孰有道、将孰有能、天地孰得、法令孰行、兵衆孰強、士卒孰練、賞罰孰明。吾以此知勝負矣。

まずはこの五事の情報を集め、次の7項目について比較する。

  • 主(君主)はどちらが道(道徳的な規範や民の意)を有しているか?
  • 将(将軍)はどちらが有能か?
  • 天地(タイミングと地の利)はどちらが得ているか?
  • 法令はどちらがしっかり実行されているか?
  • 兵衆(軍隊)はどちらが強い(数が多い)か?
  • 士卒(兵士)はどちらがより訓練されているか?
  • 賞罰はどちらが公正に行われているか?

この7項目を比較すればどちらが勝利するかわかる。

将聴吾計、用之必勝。留之。将不聴吾計、用之必敗。去之。

私の情報比較分析を聴いて戦えば必ず勝てる。そして私はここに留まることになろう。もし私の情報比較分析を聴かなければ必ず敗れるだろう。そして私は去ることになろう。

計利以聴、乃為之勢、以佐其外。勢者因利而制権也。

情報比較分析で有利とわかれば、これが勢いを生み、外部要因として軍隊の強さを支援する。勢いは有利であることに起因し、有利であれば戦の主導権を握ることができる。

兵者詭道也。故能而示之不能、用而示之不用、近而示之不遠、遠而示之不近、利而誘之、乱而取之、実而備之、強而避之、怒而撓之、卑而驕之、佚而労之、親而離之、攻而無備、出其不意。此兵家之勝。不可先伝也。

戦争とは騙し合いである。

  • 能力があっても無いように見せかける
  • 必要だと思っても不要と見せかける
  • 近くにいても遠くにいると見せかける
  • 遠くにいても近くにいると見せかける
  • 有利と感じさせ誘い出す
  • 混乱しているように見せて敵を倒す
  • 実際にあるように見せて準備をする
  • 強くみせて不利な戦いを避ける
  • 怒らせて相手を乱(みだ)す
  • 卑小と見せて相手におごり高ぶらせる
  • 安佚(あんいつ、気楽にのんびりと楽しむこと)に見せて相手を疲れさせる
  • 親しいと見せかけて相手を離間させる

これらの方法で兵法家は勝利を得るが、戦争では状況に応じて臨機応変に対応する必要があり、事前に伝えることはできない。

夫未戦而廟算勝者、得算多也。未戦而廟算不勝者、得算少也。多算勝、少算不勝。而況於無算乎。吾以此観之、勝負見矣。

作戦会議で意見が採用される者は、五事を調査し、七条件を比較して、より多くの有利な点を示した者である。逆に、意見が採用されない者は、列挙した有利な点が少ないからである。有利な点が多ければ意見が採用され、有利な点が少なければ意見は採用されない。当然、有利な点を一つも挙げなければ、意見が通ることはない。作戦会議での議論を見ていれば、物事の結果は自ずと分かる。