菜根譚 (岩波文庫) – 欲や俗世を捨てることがメインだが、心構えなどは現代に通じるところもある

投稿者: | 2023年7月1日

評価・レビュー

☆4/5

全体的に欲や俗世を捨てることを最上としていて、書かれているようなことを実践するのは、現実的には難しいだろうなとは感じました。そもそも論として、山の中に隠棲したとして、どうやって生きていくのか?という現実的な回答は一切なく、言ってしまうとある程度、お金があって働かなくても生きていけるなら実践できるかもなという感じ。

ただ、心構えとして知っておくと、人生観は結構変わるだろうなとは思いました。欲望についても、それをすべて取り除いて仙人のようになるのは難しいですが、余計なものを買わなかったり、余計なことに時間を使わなかったりすることで、人生が豊かになるというのは、個人的には納得できるかなと。

必要なものは買うべきだし、大切なことに時間を費やすのは重要という話で、本当に自分が欲しかったものとか、自分がやりたかったことについて改めて考えるきっかけにはなると思います。

ざっくり紹介

菜根譚は中国明代末期に作られた随筆集で、本書では洪自誠の訳本。そもそもは、洪自誠の「洪自誠本」と洪応命の「洪応命本」の二系統あるそうで、日本では洪自誠作が広く伝わっているそうです。

菜根譚の由来は、「人よく菜根を咬みえば,則ち百事なすべし」(菜根は堅くて筋が多い、これをかみしめてこそものの真の味わいがわかる)から。


以下は個人的に気になった言葉をピックアップしたものです。

権謀術数の知識

権謀術数のたぐいを、全く知らない者は高尚な人である。然しそれを知っていても、自分では用いない者こそ、最も高尚な人物である。

洪自誠,今井 宇三郎. 菜根譚 (Japanese Edition) (p.67). Kindle 版.

様々な謀略や策略を知っていても、それを使わない人こそ素晴らしいという話。知識として知っておかないと、いざ使われてしまった時に対応ができないですし、やはり知ることは重要なのかなと思います。

ITで言えば、ハッカーなんかがそうですね。知識はあるけど、それを悪用することはないというわけです。ちなみに悪いことをするのはクラッカー。

徳を修める砥石

人間は平素、常に耳には聞きづらい忠言を聞き、常に心には思い通りにならぬことがあって、それでこそ徳に進み行を修めるための砥石となる。

洪自誠,今井 宇三郎. 菜根譚 (Japanese Edition) (p.69). Kindle 版.

耳に痛い言葉とか、思い通りにならないことを、徳を積むための砥石と考えよということで、まさに耳に痛いなと。

様々な言葉や事象をこのように捉えることができれば、確かに自身の成長に繋げられるだろうなと思います。

自分にはまだまだ難しいなと。

失敗学

物事は失敗した後に、かえって成功の機をつかむことが多い。それ故に、失敗して思うにまかせぬときにこそ、手を放し投げ出してしまってはならない。

洪自誠,今井 宇三郎. 菜根譚 (Japanese Edition) (pp.76-77). Kindle 版.

失敗したからといってすぐに諦めないことという話ではあるのかなと。失敗は成功の母と言ったのは誰だったか忘れてしまいましたが、近年では失敗学というのが注目されています。

失敗から学び、次に生かすという話です。

個人的に読んだ本では、「失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織」がとても面白く、医療業界は未だに人為的な医療ミスが起きるけれど、航空業界は人為的なミスがかなり減ってきていて、その差が失敗から学ぶか、失敗を隠すかの違いという内容。

中国の古典は、失敗を例に出すことが多く、ある意味、失敗学の魁なのかなと個人的に思ったりしています。よくあるのは、「昔の王様はこんなことをして失敗しました。だから王様、それは止めたほうが良い」みたいなやつ。

失敗から学ぶというのは、本当に大変なことですが、失敗学についてはもっとフォーカスされても良いのかなと個人的には思っています。

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