評価・レビュー
☆5/5
人間が本来持っている特性を理解し、人間関係を良好にしようという本です。
人間とは本来、自分を受け入れ認めて欲しいという欲求があります。
それを満たしてあげることで、人間関係を好転させることができるというのが本書の要点です。
つまり、相手を受け入れ認めることで、相手の欲求が満たされ、人間関係が良くなるということ。
そしてそれが幸福にも繋がるとしています。
本書に書かれているデータでは、
カーネギー工科大学は1万人の工場労働者を綿密に調査し、成功の15%は仕事のスキルによるもので、85%は性格的な要因、とくに他人とうまくかかわる能力によるものだと結論づけた。 また、解雇された数千人の男女に関するハーバード大学の研究では、仕事の失敗で失業した人より人間関係の失敗で失業した人のほうが2倍多いことがわかった。
や
著名な心理学者のアルバート・ウィガム博士によると、その割合はもっと高いという。1年間で失業した4000人の労働者の実態を調べたところ、仕事ができないから失業したのは全体の1割にすぎず、残りの9割は他人とうまくかかわることができないから失業したことがわかったのだ。
とあり、性格や人間関係が仕事において非常に重要です。
実際に自分自身の経験を振り返ってみても、会社における人間関係はプライベートにも影響を与えますし、本人の性格すら変えてしまうこともあると感じています。
また、家族にしても、友人にしても、恋人にしても、人間関係です。
超訳 アドラーの言葉では、
仕事で成功するかどうかは、周囲の人々や社会に適応できるかどうかにかかっている。
一緒に働く人たちや顧客の要求を理解し、彼・彼女らの目で見て、彼・彼女らの耳で聞き、彼・彼女らの心が感じるように感じることのできる能力は仕事において大変重要なものである。
アドラー『生きるために大切なこと』
と、アドラーも人間関係が仕事の成功に関係していることを述べていました。
ですので、いかに良好な人間関係を築けるかが、人生において大切と言えます。
では、どうするのか?
基本的には、相手の話を聞き、相手を意見を受け入れ、相手を認め、相手を褒めることです。
ただ、単純に話を聞いたり、褒めたりするのは意味がなく、本書では聞き方や褒め方などについて、具体的に紹介しています。
最後には、人間関係を改善するための計画書の雛形や、チェックリストもあるので、より実践的にできるのも本書の特徴です。
仕事などの人間関係で悩んでいるなら、確実に読んでおきたい一冊。
以下は、本書を引用しつつ個人的なメモ。
与えよ、さらば与えられん
よい人間関係とは、自分が求めているものを手に入れるのと引き換えに、相手が求めているものを与えることだ。それ以外の関係はうまくいかない。
相手になんの見返りも与えずに、自分が求めているものを手に入れることに後ろめたさを感じない人は、人間関係に関する本を読んでも仕方がない。
「求めよ、さらば与えられん」は新約聖書「マタイ伝」の言葉ですが、本書ではまず求めるのではなく、まずは自ら相手が求めているものを与えることで、自ら求めるものを得られるという前提です。
先に与えるというと、お金とかそういうことか?と思いがちですが、本書では誰しもが持っているもので、具体的には笑顔や褒めることになります。
それらを相手に与えることで、相手が自分に対して好意的になり、結果として本書のタイトルでもある人望のある人になるという話。
自分が昔働いていた会社の上司の話ですが、部下に対して俺をもっと尊敬しろ!と怒鳴っていました。
そんなことを言われたら、たとえ尊敬の念があったとしても失せてしまいますよね。
その上司はとにかく、部下に対しては横暴で、殴る蹴るなどもありましたし、怒鳴り散らすのが日常茶飯事でした。
暴力もそうですし、怒鳴るという行為も非常にネガティブで、それを先に部下にぶつけてしまうと、部下はどうやってもネガティブな感情しか抱きません。
本書でも後半で上司部下の話が出てきますが、まずは部下を1人の人間として認めてあげることが重要としています。
部下を認めてあげれば、結果として上司に人望が集まるということです。
上司が人望を先に欲しても、得られないという話。
自尊心を傷つけないこと
すべての人は自分の自尊心を大切にしてほしいと願い、それを傷つける人を敵とみなす。
自尊心とは、自分自身への肯定的な心理で、自己評価、自己価値、自己尊重、自尊感情、自己肯定感、プライドなどです。
プライドが傷つくというのが、一番わかりやすい表現かもしれません。
なので、相手のプライドを傷つけないようにしようということ。
最近家族に、学校の成績が悪かったけれど、他にたくさん良いところがあって、それが良いところだと自分が発言したことがありました。
自分としては、相手を褒めたつもりで発言したのですが、成績が悪かったことについて、子どもたちに知られるのは嫌だったと、本人以外から話を聞いて、失敗したなあと。
その後、直接謝ったのですが、これも自尊心を傷つけてしまった例だと思います。
個人的には、家族内については、嘘はつきたくないし、見栄を張る必要もないと考えていて、自分も堂々と無職であることは表明しているのですが、それは自分自身の考えでしかなく、浅はかだったなと反省。
結構何でも話せる家族ではあって、サシで話をすれば、自分が相手を褒めていることは伝わったと思うのですが、というか、普段からズバズバ言える仲なので。
失敗のポイントは、そこに子どもたちがいたこと。それが本人の自尊心を傷つけてしまった原因です。
つまり、自尊心を傷つけるとは、その人が認められたいと考えている相手にその人の評価を下げるようなことを伝えることとも言えるかなと。
これは今後の自分のコミュニケーションの改善ポイントだと考えています。
配偶者は注目を求めている
配偶者のへの不満に関するアンケート調査がしばしば実施されると、いつも最上位にある不平が「注目してくれない」というものだ。
という内容がありました。
個人的にですが、愛とは何か? 愛は計測できるか?〜時間ベースで愛を考えるで、「愛とは相手に対して費やすことのできる時間」と定義しています。
相手に対して費やすことのできる時間が多いということは、それだけ相手を重要視しているということです。
重要視しているということは注目しているということ。
表現は今後変わるかもしれませんが、少なくとも相手に対して自分の時間を割くことで、相手が愛を感じてくれるというのは、ある程度、合っているように思います。
これは夫婦間やパートナー間だけでなく、恋愛でもそうかなと。
また、大切なポイントとして、この愛の定義においては、あくまで愛は一方的なものであり、相手に対して見返りを求めるものではありません。
こちらが◯◯をしたのに、相手が◯◯をしてくれないというのは、そもそも見返りを期待しているので、愛ではないという話。
一般的に理想的な愛のカタチは双方向で、お互いに相手に対して時間を費やしている状態なのかなと個人的に思っています。それが愛し合うということ。
論破は分断を生む
反対意見を持つ人を論破したくなるのが自然な衝動だが、本来の目的は相手を説得して賛同を得ることだ。
最近は、様々な状況から、相手を論破するというのが流行っている気がします。
自分も若い頃は、自身の正しさを証明することが、自分自身の価値を高めることだと考えていたフシがあり、存在証明だとも感じていました。
しかし、相手を論破すると、相手の自尊心が傷つき、相手との間に溝ができてしまうだけ。人間関係が壊れてしまえば、修復は難しいでしょう。
そして、敵を作るだけですし、相手はもう自分に賛同してくれることも無いかなと思います。
一番最悪な状態というのは、相手が◯◯だから反対するとか、相手が〇〇だから間違っているといった状況になること。
例え、正しいことを言ったとしても、事実を述べたとしても、ずっと平行線のままでしょう。
なんか、こういう平行線の状態が、そこかしこで最近起きていているように感じます。
そもそも、本文の引用のように、本来の目的は相手を説得し賛同を得ることです。
しかし、論破することで、その目的から、大きく遠ざかってしまうのは明白。まあ、目的が論破なら良いですが、それだと平行線のまま足踏みになるので、何も変わらないのかなと。
一歩前進させるためには、やはり論破するのではなくて、本書にも書いてありましたが、相手の話を聞き理解し、正しい部分を認め、譲歩することも大切な気がしています。
それが建設的な議論なんじゃないかなと。
本書では論破せずに説得するための方法として、逃げ道を作ってあげるというのもあるのですが、なかなかにコミュニケーションスキルが無いと難しそうかなあとは感じました。
一流の経営者とはアイデアを出す天才ではなく経営をする天才
一流の経営者は自分一人ですべてのアイデアを生み出す天才ではなく、従業員からアイデアを引き出し、それをもとに最終決定をおこない、実行に移す能力を持つ人物である。
これは結構至言かもしれないなと思いました。
海外のWebサービス系の話ではよくあるのですが、最初にサービスを考え作った人たちは、会社が大きくなると自分たちの代わりに経営者を入れます。
つまり、自分たちはサービスを考えたり作ったりすることに専念し、経営は他の人に任せてしまうのです。
適材適所的な考えもあると思いますし、自分たちが経営をしたくないというのもあるかもしれません。
もちろん、そのまま経営者として活躍する方も多いですが。
自分は名プレイヤー≠名監督ならば、優秀な部下≠優秀な上司ではないのか?と考えていて、基本的に普通の人は、名プレイヤー&名監督というのは難しいのかなと思っています。
それができるのは一部の人だけかなと。
求められる能力が異なるためです。
子どもに事前に意見を聞く大切さ
子どもは事前に自分の意見を言い、提案する機会を与えられると、意に沿わない決定がくだされても、親の権威に喜んで従うものです
ルース・バービー博士
これも目からウロコというか、自分が子どもだった時のことを考えると、納得できる内容だなあと。
自分の意見を言う場が無くて、勝手に物事を進められるとすごく嫌な気分になったことをいろいろと思い出します。
また、これは個人的にですが、子どもというのは純粋で、ある意味、大人の考えるしがらみや慣習などが無いので、真っ直ぐな意見が多いんですよね。
なので、ハッとさせられることも多々あるなあと。
一方で突拍子もない考えも出てきたりして、それはそれで面白いと感じることがあります。
大人に比べれば、意見や提案する際の前提条件となる情報が少ないため、大人の方が正しいと考えがちですが、意外と情報に溺れて物事が見えなくなっていることもあるので、そういう意味でも子どもの意見を聞くというのは大切だと個人的に感じています。
と、いろいろと書いてきましたが、他にも学びが非常に多い一冊です。読んでおいて損はないかなと。
今年読んだ本では今のところ一番かも。他にも甲乙つけがたい本がいろいろとありますが、本書は誰にでも当てはまり、実践もしやすいからです。
ぜひ、未読であれば一度手にとって欲しい本。