BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは 書籍レビュー 脳を知り自らを知る良書

投稿者: | 2022年2月3日

評価

☆5/5

神経科学的なアプローチによる

  • モチベーション
  • ストレス
  • クリエイティビティ

についての原理と考え方、そして対処法などが書かれています。ジャンルとしてはビジネス書ではありますが、ハウツー本ではなく脳の仕組みを知り、自分自身をコントロールするための基礎的な知識という感じです。

内容としては非常に平易に書かれていてとてもわかり易いですが、脳に関する専門用語がいくつか出てくるため、ある程度それらの用語を知識として持っている、または知らない用語があっても特に気にせず読める方でないと、難しいと感じるかもしれません。

また本書を読んだからと言って何かをすぐに実践できるような手法が書かれているわけではなく、本書をトリガーにして自身で考え、適用していくことで効果が得られる内容になっています。

ですので、自分自身についてもっと知りたい方には最適な1冊と言えるでしょう。

個人的には非常に面白く読むことができました。学びはたくさんありますが、個人的に3つピックアップするとしたら、

  • モチベーションアップ:ボトムアップ系欠乏状態をトップダウン系に使う
  • ストレスが無いと言い続けている人はうつ病になりやすい傾向
  • クリエイティビティは後天的能力

です。

ボトムアップ系欠乏状態をトップダウン系に使う

モチベーションにはボトムアップ型とトップダウン型あり、

  • ボトムアップ型とは人間の生理現象など本能に近い部分で無意識なもの
  • トップダウン型はその逆で勉強しようなど自身で意識するもの

になります。

で、本能に近い部分のモチベーションを使って、トップダウン系に活用しようという考え方です。例として空腹時に集中力が高まるという話が出ていました。確かに自分も空腹時の方が集中力が高い気がしますし、仕事がはかどります。

眠いなどは活用が難しいですが、活用方法はいろいろとありそうです。本書で著者はコーヒーを例にして飲みたいけど飲まずにいることで、飲みたいという欲求からドーパミンを出すという方法を紹介していました。

体操で有名な内村航平選手は1日1食だそうで他にそうしているアスリートが多いそうです。ゲームの話になりますがAlliance of Valiant ArmsやPUBGプレイヤーとして人気のあるSHAKAさんも1日1食と言っていたことを思い出しました。コスパが良いのでみたいな話をしていましたが、集中力の高さにも影響を与えていた可能性はありますね。

ストレスが無いと言い続けている人はうつ病になりやすい傾向

本当にストレスが無ければ問題ないのですが、実際にストレスをまったく感じない人は存在しません。というか脳が勝手にストレスを判断し、脳内物質を出すのでストレスが無くすというのは難しいのです。

で、ストレスが無いと言い続けている人というのは、ストレス状態、つまり脳がストレスを感じ脳内物質を出しているにも関わらず、それを認識できない人ということです。その結果、脳はずっとストレスを感じ続けることになり、結果としてうつ病になってしまうという話。

うまくストレスを解消できればよいのですが、そもそもストレス感じていないと誤認識しているため、ストレスを解消する行動を自ら行うことが少なく、ストレス状態が続いてしまいます。

これは私自身の話ではありますが、まさにストレス状態がマヒしていた時があり、仕事中に廊下を歩いていたらいきなり立てなくなり、気持ち悪くなって、動けなくなってしまいました。そのような症状が度々起こるようになり、さらに夜しっかり寝ているのにも関わらず常に眠くなってしまい、仕事中に隠れて寝ることが増え、仕事に支障を来たすようになりました。

結果として仕事は辞めることになります。当時自分はかなり過酷な環境下で仕事をしていた過去からストレスに強いと思っていたのですが、実際にはストレスを感じていることをちゃんと認識できていなかったと今は思います。

自分自身をしっかりと認識できていない状態だったわけです。本書ではメタ認知という言葉で表現されています。メタ認知とは自分自身を客観視、俯瞰視した認知の状態のこと。そして本書ではこのメタ認知が重要だと説いています。

これは確かにそのとおりですね。自身パフォーマンスが出ている時、パフォーマンスが出ていない時などをしっかり認識し、何が原因でそれが起きているのかを解明することで、パフォーマンスを出しやすくするというのは、あらゆる面で重要です。

クリエイティビティは後天的能力

クリエイティビティを発揮している時、人間は脳の様々な部分を使っており、その多くは後天的に育てることができる脳の部分であると解説しています。そのため、クリエイティビティは後天的能力であるというわけです。

しかしながら、クリエイティビティについてはまだまだ脳の解明が進んでいないため、あくまでそれらの脳の分野が使われていることがわかっているだけで、クリエイティビティな脳を作る方法については明確な答えはありません。

本書ではあくまで使われている脳を鍛えることで、クリエイティビティの能力がアップするのでは?というアプローチです。

確かに使っていない脳は反応が鈍くなり使われなくなりますので、クリエイティビティには重要と言えるでしょう。

これは個人的な考えですが、新しいアイデアや創造に必要なクリエイティビティには、脳の様々な部分を使うという認識、またはそれを司る脳の機能があるのでは?と考えています。

まず、脳の様々な部分を使うという認識というのは、いわゆるアイデア創造ツールです。いろいろな方法がありますが、例えば真逆のことを考えてみるなどです。しかし、そのようなアイデア創造ツールを使ってもクリエイティビティがうまく機能しないことがあります。つまり、脳の使い方に違いがあるのでは?という推測です。

そのような推測をしたのはアイデアソンを開いた時の個人的な経験から。

アイデアソンを開いた際にアイデア創造ツールについて勉強をしている学生が参加してくれました。ですので、その学生の指示に従ってアイデアソンを始めたのですが、結果としてアイデアを出す数に大きな違いがありました。自分はアイデアソンやブレストが得意な方で、毎回かなりの数のアイデアを出します。そのアイデアソンでも同様でした。しかし、他の参加者の方たちはそうでも無かったです。

また、IT系のOSSコミュニティのブレスト会でも同様なことが起きました。コミュニティを盛り上げるにはどうしたらよいか?というお題に対してのブレスト会でしたが、参加者の中にはxxしかありえないと譲らない人がいて、アイデアソンやブレストは質より量を出すのが目的なのですが、ブレスト会の目的を履き違えている人もいました。それが単純に脳のバイアス化の問題なのか、それとも脳の使い方の問題なのかは明確にはわかりません。

ただ定期的に参加していたビジネスブレスト会でもそうだったので、人によってアイデアの創出数に大きな差があることは確かです。ツールを使おうとも、数に差が出るということは、脳に違いがある可能性の方が高いのかなと個人的には思っています。


用語などのメモ

  • モチベータ:行動を誘引する始点となる間接的な原因
  • モチベーション・メディエータ:行動を誘引する直接的な体内(脳内)の状態
  • モチベーション:行動を誘引する直接的な体内(脳内)の状態を認識した状態
  • モチベーショントリガー:やる気スイッチ。好きな名言や本、マンガの一節、音楽など。動作を加えると効果が上がる(イチロー選手が打席に立った時の動作など)
  • Neurons that fire together wire together:同時に発火された神経細胞は結びつく
  • アイスブレイク:心理的安心状態を作るのが目的。ただの雑談ではない。
  • 心理カウンセラー:心理的安心状態を生み出すことでストレスを減らす役割がある
  • モチベーションが引き出されるSEKK、WANT、TRY、LIKEの4つの情動
  • 感覚的なものや違和感:脳が過去の記憶から出しているシグナル。根拠が無いわけではない。
  • 痛みを感じると痛みを和らげる化学物質が出て、心理的安心状態があると痛みが快楽になる。
  • ドーパミン誘導の基礎:予測差分、期待値差分。大きいほどドーパミンが出る
  • 結果ドリブンの脳だけでなくプロセスドリブンの脳が重要になってくる
  • 脳の3つのモード:デフォルトモード・ネットワーク、セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク、サリエンス・ネットワーク(デフォルトとエントラルを切り替える役割)
  • 避けた方が良いストレス:やりたいこと以外から受けるストレス、過剰すぎるストレス、慢性的なストレス
  • 無意識バイアス:価値観、決めつけ。この無意識バイアスに差分が出るとストレスが発生
  • 過去のネガティブな感情を思い出した時にポジティブな感情を発露させることで過去のネガティブな感情をポジティブな感情にできる
  • 人間は基本的に何時間も集中できる。15分というのは嫌なことをしている時の集中が持つ時間。
  • Use it or Lose it:使われれば結びつき、使われなければ失う

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