評価・レビュー
☆4/5
山奥で暮らすカルト宗教団体が集団自殺し、その唯一の生存者である少女は、首を斬られた少年に助けられたという記憶があった。首無し聖人伝説のような少女の記憶は正しいのか、それとも事件の真相は別にあるのか? 依頼を受けた探偵・上苙丞(うえおろじょう)は様々な検証の結果、首無し聖人による奇蹟と断定するが、それを論破するために論客が送り込まれ、論戦することになるのだが・・・
みたいな話。
まず設定が非常に面白いですね。ミステリにおいて探偵というのは、この手の奇蹟なんかの真相を暴く側であることがほとんどですが、本作では逆になっています。また、タイトルにもある通り、論客たちによる様々な説を「その可能性はすでに考えた」と論破し、奇蹟であることを証明していくというのも面白いです。
斬新な設定が好きなら、かなり楽しめると思います。
中国語がちょこちょこ出てきて、若干読みにくいというか、読み方を忘れてしまい、もにょもにょして読むことになるのですが、そこで少し好みはでるかもしれません。
また、オチについても、定番のミステリとは少しテイストが異なるので、スパッとスッキリ爽快のようなミステリが好きな人はちょっとダメかも。あと、バリバリの理系の人もちょっと厳しいかなあと感じました。
個人的にはエンタメと割り切って読んでいたので、普通に楽しむことができたので、その当たりのある程度懐が深くないと楽しめないかも。
印象に残った内容
ネタバラシが無い程度に個人的に印象的だった内容を紹介します。
神の人間への愛というよりひたすら冷酷無慈悲な無関心だ。
探偵に金を貸しながらも何かと探偵を助ける姚扶琳(ヤオ フーリン)の言葉で、
神に助けを求めながら無残な責め苦で死んでいく犠牲者を見るたびにただ感じるのは、神の人間への愛というよりひたすら冷酷無慈悲な無関心だ。
井上真偽. その可能性はすでに考えた (Japanese Edition) (p.294). Kindle 版.
というのがあります。これは結構現実世界を抉る鋭い言葉だなあと。
多くの人がそれぞれの宗教を信じていますが、実際のところ世界からは不幸は無くなっていなくて、流石に神様、それは救ってあげても良いのでは?という事案でも、特に奇蹟は起こらず、ただただ人間は最悪な状況を受け入れるしか無いということがしばしばあります。
そんな状況を考えれば、神は存在しないのでは?と考えるのが普通だと思うのですが、実際は神の試練ということで、それを受け入れるわけです。神様がこれは試練だ!と言ったわけでもないのに。
そういう意味で、人間がどれほど神様を想っても、神様は何も応えてくれないし、そもそも人間に関心すら無いんじゃないかなと。それが冷酷無慈悲な無関心という言葉で表現されているように思いますし、的を射ているように思います。
他にも面白い言葉はいくつかメモったのですが、ストーリーに関係している話もあるので割愛。