評価
☆5/5
銀河英雄伝説 Die Neue Theseを観たら再燃してしまい、改めて石黒監督版の銀河英雄伝説を全110話視聴しました。いやあ面白かった。昔観た時は戦闘をメインに楽しんでいたのですが、今回は思想的なテーマの方が面白く感じましたね。歳をとってから観るといろいろと感じるところがあります。
話としては
皇帝と貴族が統治する銀河帝国と帝国から脱出し建国された自由惑星同盟が銀河を股にかけ戦うスペースオペラ。
みたいな感じ。
銀河帝国と自由惑星同盟の力が拮抗していた中で、その均衡を破壊する常勝の天才 ラインハルト・フォン・ローエングラムが銀河帝国に登場し、それに対抗する腐敗の魔術師 ヤン・ウェンリーの二人が主人公です。
二人の関係はある意味、三国志で言えば諸葛亮孔明と司馬懿仲達みたいな感じ。
人の命以上の価値が存在するのか?というテーマ
今回改めて観て感じたのは銀河英雄伝説のテーマは「人の命以上の価値があるのか?無いのか?」かなと。
作中でヤン・ウェンリーは、
人間の社会には思想の潮流が2つあるんだ。人の命以上の価値があるという説と、命に優るものはないという説とだ。人は戦いを始める時前者を口実にし、止める時に後者を口にする。
と語っています。これは自由惑星同盟が銀河帝国への出兵に際し銀河帝国による帝政支配は打倒するために国民は命を捧げるべきという理由を挙げていることに対する疑問というか、問いかけです。本作ではその回答についてもある程度述べてはいますが、そこに対しては賛否あるでしょう。ただ、考えるきっかけとしては良いと思います。めちゃくちゃ長い話なので観るのが大変ではありますが、個人的には全話観て欲しいかなと。
他にも様々なテーマがあるのですが、個人的にこの点が一番心に響きました。
矛盾の人 ヤン・ウェンリーの本質
個人的には状況に合わせて憲法は変えても良いと思っていますし、独裁者を防ぐ、つまり権力の集中を防ぐような仕組みを作ることが大切なのではないかなと考えています。1つの考え方に固執し、それを正しいと信じ、変えない、変えてはいけないという考え方の方が怖いかなと。
銀河英雄伝説の作中でヤン・ウェンリーは矛盾の人と評されることがあります。それは自身の夢は歴史研究家であるのに対して軍人として戦っているからです。
ただ、個人的にはヤン・ウェンリー自身が自身の正義を信じていない、常に行動や選択に対して疑問を持っている点が矛盾の人と評される所以かなと思っています。
作中ではラインハルトという名君による専制君主と最悪な自由惑星同盟の民主政治の間で苦労していますが、
人間は、自分が悪であるという認識に耐えられるほど強くはない。人間が最も強く、最も残酷に、最も無慈悲になりうるのは、自分の正しさを確信したときだ。
というセリフがあるように、正しさに対して疑問を呈しています。ラインハルトが正しいとしても、そこに疑問の余地があるということです。そしてこれがヤン・ウェンリーの本質なのではないかなと。そしてそれは人間の本質でもあるように思います。
つまり、すべての人間は矛盾を抱えているということです。
しかしながら、多くの人は自分自身の矛盾を認めないというか、認めることが怖いのだろうと思います。それが、自分が悪であるという認識に耐えられないということかなと。
だからこそ、正しさを確信したくなり、引くに引けなくなる状態になるかもしれません。このあたりは正義の議論とも似ていますね。
個人的に考える理想的な社会
結局人はまだまだ未熟であり、完璧でも無いので、常に考え続けることが大事なのではないかなと個人的に思っています。
今日正しいと思ったことが明日間違いだったと気づいた時、自身の誤りを認め、自身を変えられるかどうかが重要なのではないかなということです。
そして、その誤りを受容できる社会というのが理想的な社会なのではないかなと。でないと、誤りだと知りながらその否を認めることができず、突き進むしか無くなり、最悪の結果に繋がるのではと思うからです。
大きな誤りになる前に小さな誤りの段階で、方向転換ができる、考え方を変えることができるような社会ができたら、今よりはほんの少し良くなるんじゃないかなと個人的に考えています。