
評価・レビュー
☆4/5
吸血鬼である後藤次郎の視点で描かれる、人間の彼女との物語。短編。
さらっと読めて良かったです。
ただ、短編1つだけなので、他にももう2つぐらい短編を読みたかったなあと。
Kindle Unlimitedで読んだので、お金の部分はあんまり関係無いんですけど。
また、二度目に読むと、結構味わい深い内容なので、一度目で微妙でももう一度読んでほしいなと思った作品。
個人的に三浦しをん先生の文章が好きです。
以下は、本文を引用しつつ個人的なメモ。
俺を殺すのは凶器や恐怖ではなく、退屈なのではないか
俺を殺すのは凶器や恐怖ではなく、退屈なのではないか。そう思い至ってからは、新しい経験を追い求めるのはやめにした。刺激なんて、インフレが激しい国の紙幣みたいなものだ。いっぱい0が並んだ高額紙幣でも、まともに物も買えやしない。それと同じだ。いくら刺激を集めても、決して満たされることはない。満たされないと思い知らされて、がっかりするのはもうごめんだ。
吸血鬼の主人公の言葉です。
で、この言葉、人間にも当てはまるなあというのが個人的な感覚。
刺激を追い求めても、満たされることはなく、さらに追い求め続けた先には、空虚しかないというか。
これは自分の考えですが、そんな空虚も人生というか、重要な気はしています。
世の中において、良い人生とか悪い人生とか言われたりすることがありますが、本当にそれは良い人生なのか、悪い人生なのかって、わからないというか。
本人が納得していれば、クソみたいな人生であっても楽しいでしょうし、どれほど裕福な暮らしをしていても、物足りなさを感じていれば、辛い人生でしょうし。
つまり、他者が決めることではないんじゃないかなって。
大切なのは、自分自身の心かなと。
最近、そう思っています。
俺はまんまと恋に落ちた。懲りもせずよくやるな、と自分でも思う。
恋はむなしいし飽きると言い、なるべく心を動かさないようにするとも言ったのに、実に恥ずかしいかぎりではあるが、俺はまんまと恋に落ちた。懲りもせずよくやるな、と自分でも思う。
刺激を避けて生きることを決めた吸血鬼の主人公でしたが、結局、恋に落ちるというのが、本書のはじまり。
実際にどんな恋愛なのかについては、本書を読んでいただければなと。
クスリと笑えてしまう内容もあれば、切なさというか、様々な葛藤があり、個人的には面白かったです。
特に二人のやり取りというか、描写というか、詳しくは書きませんが、ツボったところがあって良かったです。
自分の話で言えば、これまでいくつも失敗を繰り返し、未だ独身。
で、もう恋はしないだろう、人を好きにはならないだろうと思っていたのですが、自分もまんまとやられてしまい、そしてまたうまくいきませんでした。
でも、また新しい恋がはじまり、なんとも節操がないなと思いつつ。
ただ、本小説の最後の言葉が、人生の芯を捉えているというか、その通りだなあという感じで、ぜひ最後まで読んで欲しいです。