
評価・レビュー
☆4/5
タイトルと同名の小説「三月は深き紅の淵を」を巡る4つの物語。
それぞれが独立した話ではあるものの、物語の中に出てくる小説自体が4章に分かれていて、それが4つの物語とも連動しているという構造です。
ちょっとわかりにくいかもしれないですね。
また、ちょっとしたミステリ的なテイストもあります。謎というよりは、仕掛けと言ったほうがよいかもしれません。
加えて、本小説は、その後に恩田陸先生が発表している小説とも、内容でリンクしている部分があります。
なので、単体では楽しみきれないのかもしれません。
そんなこともあって、本書は結構賛否が分かれるみたいです。
以下、本書を引用しつつ、個人的なメモ。
女は女の未来に嫉妬する
あんたには分からないわ、女は女そのものに嫉妬するんじゃなくて、その女の未来に嫉妬するのよ。
これは個人的には思いつかなかった感覚で、とても興味深いと思いました。
人間は未来予測を無意識にする生き物だと思っていて、それが人間の感情の発露に関わっていると個人的に考えています。
なので、未来に嫉妬するというのは、とてもしっくり来るなあと。
一緒に歩いているだけで幸せな関係
ずうっと歩いていけたらいいと思わない? こうやって、好きな人とてくてく並んで歩いていくだけで一生過ごせたらいいなあ。
個人的に、最近そういうことがあって、ただ一緒にいるだけでも幸せな気分になれる人というのは、とても貴重な存在だと感じています。
森は死者でいっぱいだ
森は生きている、というのは嘘だ。
いや、嘘というよりも、正しくない、と言うべきだろう。
森は死者でいっぱいだ。森を見た瞬間に押し寄せる何やらざわざわした感触は、死者たちの呟きなのだ。
ふと、梶井基次郎先生の桜の樹の下にはを思い出しました。
生物は死者を糧として、その生命を繋いでいくというのは、まさにそうだなあと。
森というのは、それを体現している存在として、とてもわかりやすいと感じました。
その輪廻というか、循環というか、円環というか、ぐるりと回ってまた戻って来るものの、実はちょっとずつズレていて、その本質は螺旋、つまりDNAなんだろうなと思ったり。
そう考えると、DNAの呪縛というのは、とても強いような気もします。