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評価・レビュー
☆5/5
六韜は太公望と周の文王・武王とのやり取り、三略は太公望が書き神仙の黄石公が選録した兵法書です。
六韜は具体的な軍の編成や戦術の話が多く、三略は戦略や治世の全体的まとめ的な感じかなと。
どちらも初めて読んだのですが、六韜は若干話が細かすぎるので、汎用性という意味では少し低い印象。
逆に三略は現代に通ずるような内容が多くて、三略だけでも読んでほしいかなと思いました。
三略自体は短いので、サクッと読めますし、他にも三略に関する書籍はいろいろと出ているので、本書にこだわる必要性は無いと思います。
本書のメリットとしては、全3巻で中国の兵法書の基本である武経七書をすべて網羅できる点。
また、守屋洋先生の訳は、現代に即してわかりやすいので、とても読みやすいです。
個人的にはおすすめ。
以下は本書から引用しながら、個人的に思ったことなどのメモ。
柔よく剛を制す
『軍讖』という兵書に、 「柔よく剛を制し、弱よく強を制す」 ということばがある。 たしかに、柔であれば人から慕われるが、剛であれば人から憎まれる。弱であれば助けてもらえるが、強であれば眼の敵にされる。ただし、柔、剛、弱、強の四つのあり方には、それぞれに使い道がある。だから、時と場合に応じて使い分けなければならない。
守屋 洋; 守屋 淳. [新装版]全訳「武経七書」3 六韜 三略 . プレジデント社. Kindle 版.
柔よく剛を制すの元の言葉で、三略から。
よく強を制すという言葉が続いていて、弱いからこそ味方が助けてくれて強を倒せるという考え方は興味深いですね。
かといって、柔や弱であれというわけではないのが、三略が示すところで、柔、剛、弱、強を使い分けることが重要と説いています。
敵の動きに応じて対応する
およそ物事は、手がかりがなければ知りようがない。 ところが天地のはたらきは霊妙であって、万物とともに推移し、つねに変化してやまない。戦いも同じこと。けっしてこちらからは仕掛けず、敵の動きに応じて、自在に対応しなければならない。そうあってこそ、天子を助けて大きな事業を成し遂げ、異民族を従わせて天下を平定することができるのである。
守屋 洋; 守屋 淳. [新装版]全訳「武経七書」3 六韜 三略 . プレジデント社. Kindle 版.
三略を読んでいて感じたのは、戦においては自ら仕掛けるのではなく、あくまで敵の動きに対応するというのが基本スタンスになっている点。
無駄な争いは避けるべきというのが根底にあるのかなと思います。
個人的に感じたところですが、大切なのは天下を統一することではなくて、民が安心して暮らせる世の中を作ることなのかなと。
民が苦しんでいては、結局国が滅びますし、複数の国があったとしても、民がみんな幸福であれば問題ないのかなという話。
これは何となく、他の兵法書というか、中国の古典の根幹にあるように個人的には感じています。
一方で、現代においては、その領土を拡大しようとしている中国。
時代的な背景や権力者たちの思惑などもあるのかもしれませんが、権力者の方たちには世界でも読みつがれ評価の高い中国古典を今一度読んで欲しいかなと思ったり。
まあ、これは中国だけの話ではないですが。
喉が乾いたときに水を欲するように人材を欲する
将たる者が、喉のかわいた者が水を欲するように人材を求めるなら、それだけすぐれた人材が集まってくる。ただし、かれらの諫言に耳を傾けなかったら、せっかくの人材も逃げていく。献策をとりあげなかったら、せっかくやってきた知謀の士にも背かれてしまう。
守屋 洋; 守屋 淳. [新装版]全訳「武経七書」3 六韜 三略 . プレジデント社. Kindle 版.
表現が面白いなと思ったのと、結構本質をついているなと感じました。
よく良い人材がいないという経営者や人事担当者が居ますが、実際には「安い給料で馬車馬のように働き成果を出してくれる人材」がいないという意味です。
三略で述べられているように、喉が乾いた時に水が欲しがるように、必死になれば良い人材などすぐに集まるかなと。
喉が乾いていたら、たとえ水の値段が500円だったとしても、欲しいですよね。
つまり、良い人材がいないと言っている経営者や人事担当者は、本当に良い人材を集めようとは思っていないというわけ。
また、良い人材を雇ったとしても、その言葉に耳を傾けなければ、結局離れていってしまいます。
これもまた事実かなと。
自分が経験したところでは、自分よりも優れた人材を嫌う経営者がいて、結局多くの人材がその経営者の元を離れていきました。
乱の源
「官吏が徒党を組んで、親しい者だけを昇進させ、立派な人物を押さえつけて腹黒い人間を推挙し、もっぱら私利私欲の追求に走り、同僚の足を引っぱっている。これを〝乱の源〟と言う」
守屋 洋; 守屋 淳. [新装版]全訳「武経七書」3 六韜 三略 . プレジデント社. Kindle 版.
非常に耳に痛い言葉かなと。
能力があっても、それを活かせなければ、結局は企業にとっても、日本の政治にとってもマイナス、ひいては国民にとっての不利益になります。
ただ、人間というものは、何千年経っても変わることはなく、縁故採用したり、天下りで私利私欲を満たし、社内政治に明け暮れるわけです。
なんとも、寂しい話ではありますが、そこから脱却することは、おそらく人間には難しいだろうなと。
そうなると、そういったしがらみのない、AIの活用というか、AIに支配される社会が理想的と言えるかもしれません。
そうならないためにも、人間自身が成長する必要があるんじゃないかなと個人的には思っています。
自分の姿勢を正せば政治は上手くいく
自分のことは棚に上げて人を教えようとするのは混乱のもと。人を教化しようとするなら、まず自分の姿勢を正さなければならない。そうあってこそ政治もうまくいくのである。
守屋 洋; 守屋 淳. [新装版]全訳「武経七書」3 六韜 三略 . プレジデント社. Kindle 版.
まさに今の日本の政治に必要なことかなと個人的には思いました。
まずは政治家や官僚が自らの襟を正し、その上で国民のことを考えた政策を打ち出せば、きっと国民の多くは、それを理解し、協力してくれるだろうなと。
結局、自分たちの利益を優先・確保した上で、国民だけに負担を強いるから、混乱のもとになっているような気がします。
そんな状態ではいくら国民に訴えかけても、耳を傾けてくれることも無いですし、国民の納得も得られないだろうなと。
政治に対する疑いや戸惑いが国を揺るがす
人民が政治に疑いの目を向けるようになると国内の安定は失われ、戸惑いの色を浮かべるようになると、仕事に身がはいらなくなる。疑いや戸惑いがなくなって、はじめて国が安定するのだ。
守屋 洋; 守屋 淳. [新装版]全訳「武経七書」3 六韜 三略 . プレジデント社. Kindle 版.
これもまさに今の日本の状態を、鋭く指摘しているような言葉かなと思いました。
政治不信なんて言葉がありますが、まさに今の日本はその状態。
増税増税、とにかく増税という状態で、国民の多くが政治に対して、不信感しか持てない状態になっているかなと。
そして、そのような政治不信が結果として、国民を不安にさせ、経済の成長も滞ってしまうということです。
失われた30年というのは、もしかすると政治不信にこそ原因があるのかもしれません。
そのような疑いや戸惑いを無くす方法は、オープンにすることだと個人的に思っています。
やましいことが無ければ、あらゆる情報をオープンにすべきで、裏金という時点で、オープンにできない使い道と公言しているわけですから、疑いが出てしまうのは当然なのかなと。
また、のり弁と言われる、黒塗りも同じように思います。
不正が無いのであれば、情報を公開すべきです。
なんか、海外の映画とかドラマでも、こういう黒塗りを暴く系の話って多いかなと。
で、多くの場合、不正だったり、問題を隠していたりするわけで、そりゃあ不信感しか出てこないだろうなと思います。
天に逆らう統治
怨みを抱かれている者が怨みを抱く者を治める、これを天に逆らうという。また、敵とつけ狙われている者がつけ狙っている相手を治めようとしても、うまくいくわけがない。
守屋 洋; 守屋 淳. [新装版]全訳「武経七書」3 六韜 三略 . プレジデント社. Kindle 版.
本当に三略の指摘は鋭いなと。
今の日本の政治を言い当てるような内容で、ちょっと怖いぐらい。
現状で言えば、まさに増税増税で、増税メガネなんて揶揄されるほど、国民の怨みを買っている政府ですが、そのような政治家が国を治めるのは、まさに天に逆らう行為と言えると思います。
国民に迎合せよとは言いませんが、少なくとも国民が怨みを抱くのは、その政策に納得ができていないからでしょう。
自分たちは裏金で利益を確保し、天下りで美味しい思いをしている一方で、国民には負担を強いるという状況は、そろそろ打開しないといけないような気もしています。
本来国民の味方であるはずの政治家や官僚が、国民の敵になっている状態とも言えるかなと。
まずは国民の方を向いた政治をしてほしいなと個人的には思います。
世襲政治は腐敗と混乱を招く
賢明な臣下が政治をとり行なえば、腹黒い臣下は外に追われる。逆に、腹黒い臣下が政治をとれば、賢明な臣下は倒されてしまう。こんな逆さまなことがまかり通るようになると、政治はとめどもなく混乱する。
守屋 洋; 守屋 淳. [新装版]全訳「武経七書」3 六韜 三略 . プレジデント社. Kindle 版.
日本の政治が混乱しているは、まさに腹黒い臣下が政治を動かしているからなかと。
自身の利益を優先するあまり、意味不明な政策がまかり通ってしまっているようにも思います。
政治家について言えば、日本の場合はまさに世襲がその原因の根幹かなと。
もちろん、世襲政治家であっても優秀な人はいるでしょう。
しかし、多くの場合は、そうではありません。
また、閨閥と言われ、日本の政治家は、婚姻関係などでがっつりつながっているんですよね。
自分たちの利益を守るために、そのような縁戚関係でつながりを強固にしているのですが、その結果優秀な人材は政治から弾かれてしまっています。
失われた30年だけではなく、今の日本の政治の混乱を招いている原因は、まさに世襲や閨閥によってがっちり固められた体制にあるのではないかなと。
そういったしがらみというか、いわゆる地盤がなくても、政治家になれるような仕組みが作れれば、少しだけ政治に対しての不信感はなくなるだろうし、結果として国民にとってプラスになるように個人的には思っています。
まあ、そういう政治システムを作るのは、現状では難しいのですが。
なぜなら、世襲や閨閥、利権構造で固められた今の権力者たちが、それを嫌うからです。
それを打破する方法は、革命などになるのでしょうが、日本ではその実現は難しいでしょう。
あり得るとすれば、これまで以上に多くの国民が投票に行き、そのような候補者を落選させることですが、それも現実的には難しいのかなと。
なぜならば、増税増税で多くの国民は日々の生活に苦しんでいます。
政治のことなんて考える余裕も無いわけです。
結局、今の統治体制が非常に強固に作られているとも言えますね。
なので、あと20年から30年は、同じような状態は続くでしょう。
それがわかっていても、結局政治家や官僚は、自分たちの利益は確保できているので、日本経済を本気で立て直す、国民が豊かになる政治に本腰をいれることはありません。
むしろ、自分たちは利益を確保できているので、格差ができるため、支配体制をより確固たるものにできます。
悲しいですが、投票率がもっと上がって、国民が政治にノーをちゃんと突きつけない限り、絶望的な未来しか無いかなと。
と、悲観的なことばかり書いてしまいましたが、本書自体は非常に示唆に富んでいて、良書だと思いました。
前述しましたが、特に三略は短く的確な言葉で書かれていて、とても学びの多い兵法書だなと感じています。
機会があればぜひ読んでいただきたい一冊。
リンク
- 守屋 洋; 守屋 淳. [新装版]全訳「武経七書」3 六韜 三略 . プレジデント社. Kindle 版.
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