プロパガンダゲーム – 視聴者を扇動し、投票を獲得せよ!

投稿者: | 2024年10月4日

評価・レビュー

☆5/5

就活の最終選考で行なわれたプロパガンダゲームの物語。

プロパガンダゲームとは、政府側とレジスタンス側で4人vs4人に分かれ、100人の聴衆に自分たちの主張を投票で支持してもらうというもの。

それぞれのチームにはポイントが割り振られていて、ポイントを使うことで情報を得たり、聴衆への独占発信ができるというルールが面白かったです。

また、4人の中にスパイがいるというのも、人狼ゲームみたいで楽しめました。

設定の秀逸さで個人的には☆5。

以下は本書から引用しつつ個人的なメモと、ネタバレありの感想です。

ブロックバスター戦略

「おもろい話があってな、今、娯楽業界の広報の主流は、『ロングテール戦略』から『ブロックバスター戦略』に移行してる。自分のほしいもんを世界中から探せるネットが普及したことで、大勢に人気があるわけやないけど、自分が好きなニッチなもんを購入する人が増えていくいうのが大方の予想やったんやけど、今起きてる現象は真逆なんよ」

ブロックバスター戦略という言葉を初めて知って納得。そもそもロングテールって、マーケットの嗜好の分布みたいなものであって、その人たちに向けてニッチな商品を作っても、その人たちしか買わないだけかなと。

というか、そもそもロングテール戦略って、ニッチなものを購入する人が増えるという戦略じゃなかった気がします。

自分が学んだ時は、ロングテールの部分を足すと、バカ売れしている商品と同じぐらい売上があるという話でした。

つまり、マーケティング戦略で言えば、バカ売れする商品を作ってロングテールの左側を狙うか、圧倒的多数のニッチな商品を用意して、ロングテールの右側を狙うかということ。

Amazonとかがわかりやすい例ですが、かなりの種類の商品があって、これ誰が買うの?みたいなものがめっちゃありますよね。

それらの商品って売上的にはとても小さいけれど、それらが集まると大きな売上になるということ。

塵も積もれば山となる的な感じです。

平和ってのは、ものすごく抽象的な概念

「平和ってのは、ものすごく抽象的な概念なんだよ。屈強な軍隊並べられて『彼らはあなたの味方です』って言われた方が、鳩の絵を1枚見せられて『祈りましょう』なんて言われるよりはずっと安心するだろ。平和のために武力が必要だって認識を国民に浸透させれば、戦争に持っていくのは……そんなに難しいことじゃない」

平和は抽象的な概念という指摘はかなり鋭いなと思いました。

Wikipediaでは、

平和(へいわ、英: peace)は、戦争や暴力で社会が乱れていない状態のこと。

広辞苑では、

「やすらかにやわらぐこと」「穏やかで変わりのないこと」「戦争がなくて世が安穏であること」

ということになっています。

さらに、「積極的平和主義」の認識に関する質問主意書:質問本文:参議院には、

平和学の第一人者と言われる、ノルウェーのヨハン・ガルトゥング博士は、「積極的平和」を唱えている。単に戦争のない状態を平和と考える「消極的平和」に対して、貧困・抑圧・差別などの構造的暴力がない状態を平和ととらえ、「積極的平和」と定義している。

という文書がありました。

そう考えると、人によって平和のイメージって結構違うんじゃないかなって。

最初にすべきは平和の定義と、それをすべての人が認識する必要があるように思います。

じゃないと、平和のための戦争ってのが、簡単に起きてしまうからです。

本書の言葉を借りれば、

「自分たちは戦争を望んでいない。相手が一方的に平和を踏みにじろうとしている。だから、私たちが立ち上がる。言い回しはオリジナルだけど、戦争をはじめる指導者は、驚くほど同じことを言ってる。全員が平和を望むなら、戦争になるわけないのにね」

という感じかなと。

自分自身、平和について改めて考えてみようと思いました。

選挙は先に争点を設定できた側が勝つ

「マーケティングの世界やとね、選挙は先に争点を設定できた側が勝つってのが常識になってるんよ。投票するための判断基準を、自分で国民に提供してまう。そうすると、その基準を土台にして国民が考えてくれるようになる」

これは相手を論破するときに使う方法の1つですね。というか、自分も若い時に使っていました。

正確には自分が論理で相手に勝てる争点を先に設定するというやり方で、相手が何を言っても、いやいやまずはこちらの質問にちゃんと答えてくださいと言って争点を戻し、相手の言い分を聞かないことで論破したように見せることができます。

対処方法は、相手の争点に対してちゃんと答えることです。そして次の争点に移るのが良いかなと。

じゃないと、ずっと争点を戻されて話が進みません。そして、質問にちゃんと答えていないという印象が残ってしまいます。

最初の争点では負けてしまいますが、次の争点で大きなプラスを得られれば、差し引きプラスにできるはずです。

つまり、相手は局地戦を仕掛けてきているので、こちらは広域戦に持って行く必要があるということ。

そもそも議論が起きるということは、どんな意見であってもプラスとマイナスがあるわけです。

ですので、自身の弱点であるマイナスをちゃんと認識した上で議論しないと、ただの言い合いになってしまい、議論にもなりません。

というか、そもそも論として相手が議論をする気がない場合もあるので何とも言えませんが。

その時は、議論の場にすることも戦略として考える必要があります。

と、何か本編からズレてしまいましたが、こういうズラしも相手を論破する時に使われる方法ですね。

愚者は自分を疑うことをしない

『愚者は自分を疑うことをしない』。後藤の確信には、ホセ・オルテガが大衆について書いた著作の一節が念頭にあった。愚者は疑わない。大衆は忘れやすい。その性質を考えれば、「警告」というものがいかに無力なのかがよく分かる。

ぐうの音も出ません。

愚者というと、物事を何も知らない人のようなイメージがありますが、実際にはそうじゃないという話。

相手の話を一切聞かない人っていますよね。うーん、耳に痛い。

改めて自分自身のこととして、心に止めておきたい言葉だと思いました。

無能の一言で充分説明できることに、悪意を見出すな

大学の講義で教授が話していた『ハンロンの剃刀』という警句に当てはまるような気がする。「無能の一言で充分説明できることに、悪意を見出すな」

ハンロンの剃刀という言葉を初めて知りました。

無能という言い回しは少し日本語だとキツいかなという印象。

原文の英語は、

Never attribute to malice that which is adequately explained by stupidity.

で、

愚かさで十分に説明できるものを、決して悪意のせいにしてはいけません。

という訳し方ができるかなと思います。

愚かさという言葉になると、失言とか、失敗とかも含まれるかなと。

何が言いたいかというと、ふとした失言に悪意を追及しすぎないようにした方が良いのかなって話。

ジャーナリズムとは

「『ジャーナリズムとは、報じられたくないことを報じることだ。それ以外のものは、広報にすぎない』」

これも定義の話かなとは思いますが、本書で伝えたいことは、日本のジャーナリズムが地に落ちているという話で、その点については個人的に同意です。

自分は福島県出身ということもあって、東日本大震災の際の風評被害については、非常に心を痛めました。

当時、ジャーナリストと言われる人たちが、声高に様々なことを叫んでいましたが、東日本大震災から10年以上経ち、結果として間違った発信が多くされていたことがわかっています。

しかし、ジャーナリストと呼ばれる人たちは、一切謝罪もしていません。多くのマスコミもそうですね。

マスコミやジャーナリストが間違った報道をする原因は、いわゆる理系に関する知識不足があります。

それは大学で専門的な知識を〜〜という話ではなく、高校生レベルの知識すら無いということです。

なので、個人的には理系文系不要論を唱えていて、大学受験は物理・化学が必須、理想的には5教科にすべきなんじゃないかなと思っています。国立も私立も。

短所を見つけて言葉にするのは、長所を言語化するより、ずっと簡単

「短所を見つけて言葉にするのは、長所を言語化するより、ずっと簡単なんだと思う。自分の良いところを見つけるのを諦めてしまった人たちが、相手の短所だけを見つけて『宣伝』する。あのゲームで起きたのも、きっとそういうこと」

これも相手を論破するやり方の1つとしてありますね。相手の弱点を徹底的に叩くという方法です。

兵法的に合っている戦略と言えます。

個人的に思ったのは、特殊な議論や論争の場というよりも、日常生活の方で気をつけたいかなという点。

日々、様々な人に出会って生きていますが、いろいろな人の短所って気になりますよね。

そして、悪口を言い勝ちです。反省しています。

なので、相手の長所を見つけて、長所を言語化するというのが結構大切なんじゃないかなって、歳を取ってから気づきました。

ネタバレありの感想

ここからはちょっとネタバレありの感想を書いていきます。本書を未読である方は、ご注意ください。

まず、プロパガンダゲームのルールが発表された時、自分はPP(プロパガンダポイント)を使って最後の時間を扇動アクションとして取るべきだと思いました。

扇動アクションは1秒1PPなので、1分だと60PP、10分だと600PPです。10分って結構大きいなと思ったので、5分でも良いかなと。

最後の5分をゲットできるのは、かなり有利な気がしています。

特にプロパガンダゲームのルールでは、視聴者がある程度画面を見続けなければいけないという特殊な状況です。

そこで5分間、訴え続けるのは、結構効果が高いように思います。

また、相手が扇動アクションを取った時間というのは、告知されないようなので、最後の5分間を取っておくのはかなり強い戦略ではないでしょうか。

あと、レジスタンス側の場合、市民アカウントで最初からレジスタンス有利の発言をして、視聴者を誘導しようとしていましたが、個人的には最初は政府側をガンガン擁護する発言にするだろうなと。

ストーリー上、最後にアカウントがバラされるというどんでん返しが必要なので、そのような流れなのだと思います。

ただ、インパクトがあるのは、やはり人の意見が変わった時で、強い主張をしていた人の意見が変わった時というのは、特に印象に残りますし、説得力があると思うんですよね。そういう戦い方もあるんじゃないかなとか。

もう1つ、これもストーリー上の流れでどうしようも無いのですが、政府側の広報担当が裏切るのが早すぎかなと思いました。

信頼されている場合は、最後の最後に裏切るのがセオリーです。

なので、裏切り者であるスパイが残り30分で強制的に判明するみたいなルールがあった方が良かったかも。

自分がスパイだったら、確実に広報担当を狙って動くだろうなと考えたのもあります。

と、いろいろと書いたのですが、逆に言えば、これだけ様々なことを考える機会を得られたということは、それだけ本書からの学びが多く、非常に面白い題材だったということかなと。

つまり、とても面白い本だったということです。

だって、つまらない本って語ることが無いですから。

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