評価
☆5/5
話題作ということで視聴。いやあ、映画としても面白いですが、テーマとしても面白いですね。
本作は、
- 第72回カンヌ国際映画祭 パルム・ドール 受賞
- 第92回アカデミー賞 作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞 4部門受賞
と世界的にも評価されている作品。
話としては、
半地下に住んでいた貧困層家族の息子 キム・ギウが富裕層家族の家庭教師になったことをきっかけに、父が運転手として母が家政婦として妹がカウンセラーとして富裕層家族入り込んでいくのだが、その家には秘密があり・・・
という感じ。
本作が評価されたポイントは貧困層と富裕層の格差、線引きを上手く表現し、資本主義の歪をテーマにした点だと思います。単純にその違いを訴えるのではなく、映画作品として仕上げ、ストーリーもよく出来ており、演者の演技も良かったです。
評価が分かれるのはテーマに対してどう考えるかかなと。
資本主義が生む格差と差別
資本主義社会では富裕層と貧困層の格差や差別が度々問題になります。本作ではそれが顕著に表現されています。個人的に一番印象的だったのは匂いが違うという表現です。映画では柔軟剤を変えようかみたいな話でサラリと流されていますが、富裕層からすると貧困層とは匂いが違う=切り分けるべき存在として認識されているという話。
実際問題、富裕層になると人間は変わってしまいます。自分が他者とは異なる存在であることを誇示したくなるというか、貧困層とは違う存在でなくてはならないという強迫観念に似た症状に陥ることが多いです。
これは過去の歴史を見れば明らかですね。古くは中国の古典で散々書かれていることですが、未だに偉くなると人間は偉くない人間を見下すという呪縛から逃れることができません。とても興味深い話です。
昔は王様とかの権力者でしたが、それが資本主義では富裕層というわけです。ですので、未だに金持ちなら何をしてもOKと考えている富裕層の人たちが結構存在します。酒池肉林ではないですが、今も昔も変わらんというわけです。
ちょいネタバレありのラストに思うこと
最後のシーンは人に寄って様々な解釈があるかなと思います。
個人的な解釈はやはり資本主義社会への絶望かなと。身の丈を知るという言葉がありますが、それを表現したシーンではないかなと思います。そして資本主義という社会においては、お金の前に家族を見捨てる必要があるということなのかなと。
実際家族の絆がお金で壊れるというのはよくある話です。昔ながらのテーマで言えば遺産相続でしょう。実際、私の親も遺産相続でかなり揉めていました。
お金という壁は越えられないというわけです。
ジャケットも秀逸
本作のジャケットでは登場人物たちに目線が入っています。個人的にですが、これは資本主義社会において誰しもが当事者になる可能性がある、誰でも当てはまるというニュアンスがあるのかなと。
つまり、特別な誰かの話ではなくて資本主義社会の富裕層と貧困層を表した一般的な構図の裏返しということです。
前述したような資本主義社会の格差や差別の話もそうですし、富裕層に貧困層が寄生(パラサイト)するというのも、今の社会を如実に表しているのかなと。いわゆる縮図的な話。
ネタバレありの本作の別の意図
あんまり書いてしまうと観ていない人にとって面白さが半減してしまうのでアレなのですが、個人的に本作でもっとも注目したい点が富裕層の父親 パク社長が貧困層の父親 キム・ギテクに刺され死んでしまうシーンでしょう。
刺した理由として、キム・ギテクが臭いとパク社長が言っていたことが発端となっています。
本作で匂いは富裕層が貧困層を差別するときに使う言葉の1つとして表現されているため、いわゆる差別に対する抵抗という構図になっているわけです。これが本作の別の意図なのかなと。
そう考えるとラストのシーンでの絶望がより増すわけです。富裕層の貧困層への差別に対し反旗を翻すも、結局は金の力が無ければ救いはないということ。
ただ別の考え方もあって、どんなに金持ちであっても差別をしてはいけないという裏返しでもあると思います。差別をすればしっぺ返しを喰らうという教訓です。
日本人なら誰もが知っている本能寺の変。織田信長を明智光秀が裏切った話ですが、腹心の裏切りにより野望が潰える典型的な例です。信頼している部下に裏切られるという点では本作と重なる部分はありますよね。
富裕層と貧困層のボーダーを壊すには
また本作ではちょいちょい線という言葉が出てきて、富裕層と貧困層の間には線があり、それを越えてはならないという表現がされます。
そして、その線を越えるにはお金では無い何かが必要なわけです。本作ではそのボーダーを壊す方法としてテロ的とも言える殺人として描かれていると個人的に思っています。つまり、死んでしまえば富裕層と貧困層のボーダー(線)が無くなるというわけです。
世界で未だにテロが無くならないのも同じかもしれません。まあテロは良くないという意見はご尤もで正しい意見だと思いますが、「じゃあ教えてくれよ、この仕組みの深さを破壊する方法を」ってことでもあるわけです。
本作を観てそんなことを思いました。