評価・レビュー
☆5/5
猟奇殺人事件に遭遇したことで見習いカウンセラーになった中島保は、犯罪者が再犯を試みた時に、それを抑制する方法として、脳の一部に外部から腫瘍を作る方法を研究していた。自身も実験台になり、いざ実際に犯罪者に実験を行ったのだが、予想とは違う結果になってしまい、恐ろしさを感じるのだった・・・。
みたいなお話。
まず本作は、内藤了先生の猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子シリーズの作品です。
自分はまったく知らず、面白そうだったので読んでみたのですが、後から本作は過去作 ONを別視点から見たスピンオフ作品だということを知りました。
なので、先にONから読んだほうが良いかなと思います。
ただ、個人的には一気に読んでしまったので、単体作品としてもとても面白かったです。
猟奇犯罪分析官が主人公ということもあって、事件は基本的に猟奇犯罪なので、内容としては胸糞悪い事件がいくつかでてきます。
そのあたりは少し好みが出てしまうかなと。
個人的には設定が興味深いなと思いつつ、
以下は個人的に良かった言葉のメモ。
トラウマは一足飛びによくはならない
トラウマは一足飛びによくはならない。どれほど辛くても、もう一度、しっかりと遺体を見る必要がある。何が起きたか、ありのままに思い出すんだ。向き合うことが最初の一歩だ。
内藤 了. OFF 猟奇犯罪分析官・中島保 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子 (角川ホラー文庫)(Amazon)
トラウマと向き合うことが正しいかどうかは、その時の精神状態にも寄るのかなと。
この辺りは心療内科の医師の方とちゃんと話した方が良いなとは思ったのですが、一方で、自身の悪いところとか、失敗とかはちゃんと向き合った方が良いと個人的に思いました。
マイナスのことって、なかなか自分では認めにくいというか、認識しづらいところもありますが。
人間はみんな無色透明で生まれてくる
私はね、自分が善人とは言いませんが、悪人じゃないと思っとります。人間はみんな無色透明で生まれてくるのに、貧乏や、偏見や、いろんなことが重なって罪を犯してしまうこともあると、そんなふうに考えて受刑者たちに接してきた。
内藤 了. OFF 猟奇犯罪分析官・中島保 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子 (角川ホラー文庫)(Amazon)
性善説か性悪説かという二元論ではなく、そもそも無色透明という考え方は、個人的にもそう考えていたのもあって納得できるなあと。
また、生まれた後の環境が、大きく犯罪などに影響を与えているのも確かな気がします。
育った環境の影響って昔から言われていることだと思うのですが、なかなか改善方法というか、解決する方法が見つからない状態だよなあと。
DVなんかもそうですけど。
人の死んだ場所はいつも淋しい
人の死んだ場所はいつも淋しい。その淋しさが潰える為には、たくさんの人がめげずに同じ場所を踏みしめて、生きていくしかないのだろう。活動するエネルギーが悲しみを包み込んで昇華させてしまうまで、懸命に、力強く、生きていくしかないのだと思う。
内藤 了. OFF 猟奇犯罪分析官・中島保 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子 (角川ホラー文庫)(Amazon)
起きてしまった悲しい出来事というのは、どうやっても変えることはできません。
そして惨劇のあった場所というのは、やはり物悲しさを感じるのは、確かだなあと。
ただ、その淋しさがずっと残ると、きっとそこは淀んでしまう気がします。
その淀みを薄める方法が、きっと多くの人が少しずつ、その淀みを受け持つというか、持っていくことなんじゃないかなって、この言葉を読んだ時に感じました。
悲しい出来事を1人で抱えるんじゃなくて、みんなで少しずつ分かち合うことで、当事者たちが一歩踏み出せるようになるような気がしています。
自分すら尊べない者が、どうして他人を愛せるだろうか
自分すら尊べない者が、どうして他人を愛せるだろうか。
内藤 了. OFF 猟奇犯罪分析官・中島保 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子 (角川ホラー文庫)(Amazon)
自分を尊びすぎても問題ですが、自分を卑下しすぎても問題なのかなと。
自分自身を振り返ると、10代や20代の頃は、自身の自己評価が異常に高かった気がしていて、結果として人を遠ざけていたように思います。
ただ、メンタルが崩壊したときは、逆に自己評価が異常に低くて、人を自ら遠ざけていたような感じです。
ちょうどよいバランスが大切なんだろうなと。
そのバランスは自分だけでは保つことができない気もしていて、結構難しい問題のように感じています。
サイコパスというアニメでは、色相というシステムがありましたが、そういう自分の心のバランスを計測できるような機械があると良いんですけどね。