映画 ANIARA アニアーラ – 本作から何かを感じ取ってください的なSF漂流作品

投稿者: | 2023年5月25日

評価・レビュー

☆4/5

地球が汚染され火星へ移住をはじめた人類だったが、その移住船 アニアーラがエンジントラブルで航路を外れ、8000人が宇宙をさまようことになってしまった話。

原作はノーベル文学賞受賞のハリー・マーティンソン氏の同名小説。2018年作品。

まず、エンタメ作品ではないので、ワイワイ楽しい内容ではありません。ですので、娯楽作品が好きな人は、まったくもって面白さを感じないと思います。個人的にも最後で「えっ?」って感じだったので。

そこでかなり評価は分かれるかなという印象です。映画から何かわかりやすいメッセージを発信してもらうのではなく、映画から人それぞれ何かを感じ取ってください的な作品と言えるかなと。

ということで、万人には薦められませんが、SF系、それも思考実験的な話が好きなら、かなり楽しめると思います。

ちょいネタバレあり感想

少しネタバレありつつ、少し深めの感想を書いていきます。

隔離実験の巨大バージョン

8000人が収容できる宇宙船ということで、ほぼ小さな街になっています。自給自足がある程度できる状態になっていて、長期的に生活ができるというわけです。

この舞台装置から言えるのは、いわゆる思考実験的な話で、宇宙船は地球かもしれないし、小さな街なのかもしれませんが、少なくとも外界と隔絶された空間で、生活すると人々はどうなっていくのか?みたいなところが1つのテーマとしてあるのだと思います。

現在だと数名を隔離して共同生活をさせ、宇宙でのストレスなどを擬似的に計測し、宇宙での心身の状態を計測するなどの実験がありますが、それを8000人に拡張したバージョンと言えばわかりやすいかなと思います。

それが本作の1つの見所です。

知性の重要性

個人的に本作をみて一番感じたのは、知性の重要性。主人公は様々な困難に直面しても、それに対処しようとしていきます。生存するためのサバイブというよりは、心身を保つためにどうやって折り合いをつけていくか?みたいな感じ。

そのため多くの人がどんどん脱落していく中で、唯一、マトモな発言をすることが多いです。多いというのは、やはり状況が状況だけに、アレな行動もしてしまいますが、他の人と対比されているのを見ると、かなり知性の高さが強調されているように感じました。

どんな状況であっても、人としての知性を失わず、生きることが大切的な感じかなと。

人工知能は神の比喩かなと

本作では人工知能が人間の脳に作用して、楽しい地球の記憶を体験できるルームが登場します。漂流した宇宙船という絶望的な中で、このルームが人々の救いといえるわけです。

この表現は神に救いを求める時代から人工知能に救いを求める時代へ変化したことを表しつつ、実は神を人工知能という表現に置き換えたかったのかなと。

というのも、その人工知能は爆発してしまうのですが、それは宇宙という恐ろしく広大で冷たい世界においては神が役に立たないということを表現するのを避けたのかと。

全体として宗教的な表現が少ないというか、神を信じて救いを求めるみたいな表現が少ない映画で、原作はどうなっているのかはわからないのですが、こういう絶望的な状況だと大体神に祈りまくる人が結構いるんですよね。

で、それを否定することを敢えて避けているような気がしたということです。もしかすると、神とは人間が作り上げた偶像でしかないと言いたかったのかもしれません。

逆で信仰が社会の秩序を保っているとも言える

で、この人工知能という拠り所を失ったことで、宇宙船の社会が大きく崩れていきます。まあ、当然といえば当然なのですが。

この点だけ考えると、前述した神の話は逆かもなあとか。つまり、神さえ信じていれば、社会の崩壊は防げるとまでは言いませんが、少なくももっと長く秩序を保てたということです。そういう意味で宗教は重要だよ的な。まあわかりませんが。

何にせよ、こういうことを考えるのが本作の面白さなのだと思います。

時間経過の表現は良かった

個人的にですが、最後までみて良かったなと思ったのは、時間経過の表現です。結構ぶつ切り感があって、いきなり数年後とかになって、うーんと思っていたのですが、すべては最後のオチの布石だったなと。

それまで数年単位で、おいおい話すっ飛ばしすぎやろと思っていたら、急に最後は598万年後になります。最初「えっ?」となったのですが、その時感じたのは人間のちっぽけさですね。圧倒的な年月のボリューム感は人を黙らせるのにかなり説得力があるように思いました。

つまり、いろいろとあったけど、人間なんて本当にちっぽけで、取るに足らない存在であり、ごちゃごちゃ言わんと的なニュアンスかなと。

何を感じるかは人それぞれなのかもしれませんが、個人的には絶望的な虚無感を感じました。それがいわゆる映画としての余韻を作り出しているようにも思います。

良くわからん銀色のミサイルみたいなやつ

最後に、途中で出てくる良くわからんミサイルみたいなやつですが、いわゆる2001年宇宙の旅でいえばモノリス的な感じなんだろうなと。

人間の手には負えない、まだ未知のものが存在するという表現だと個人的には理解しました。というのも、全体として人間ができることの小ささみたいなものが全体として表現されているかなと。

例えば、宇宙船が漂流するきっかけになった事故もリスクを考えればエンジンなり燃料なりの予備を用意しておくのは当然です。まあ、想定していなかった出来事ということなのでしょうが、それも人間にはすべてを予測できないという裏返しでもあるかなと。

人工知能の故障もそうですね。よくある話かなと、想定外の出来事というのは。日本だったら東日本大震災での原発事故や津波が記憶に新しいです。

で、そういう感じで、救いが生まれては絶望を与えることで、人間には制御できんことがまだまだあるんだぜ的な、驕り高ぶるなよ人類よ的な、メッセージなのかなと。

そんなことを思いました。

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