時間は存在しない「この世界は物ではなく、出来事の集まりなのである。」

投稿者: | 2024年3月3日

評価・レビュー

☆5/5

時間とは何かについて、最新の物理学から紐解いていくという内容です。

驚くべき点は全編を通して数式が1つ、それも超シンプルな数式しか出てこないこと。

ですので、数式が苦手な方でもとても読みやすいのが特徴です。

「時間は存在しない」というタイトルについては、我々が日々感じている時間が実は正しい認識ではないという表現なので、少し飛ばしのタイトルかなという気はしました。

また、本書ではアリストテレスなど過去の哲学者や偉人たちの言葉の中に、実は最新の物理学の考え方に通じる点を挙げていて、それまでの多くの人々の思索の上に、今があることを表現しています。

このあたりは物理学の本ではあるものの、哲学書に近いところもあるのかなとは感じました。

個人的には最近読んだ本の中ではダントツで面白く、まとめ方も秀逸で素晴らしい書籍だと思います。

また、ループ量子重力理論にかなり興味が出てきました。

この手の話に興味があるなら、絶対に読んで欲しい一冊。

個人的な解釈

以下は本書の個人的な解釈です。少し違う点もあるかもしれませんが、半分は個人的なメモなのでご容赦ください。

「時間は存在しない」とは、ループ量子重力理論において、世界を記述する数式に時間(t)が無いことが起点になっています。

また、相対性理論によって、物質ごとに流れる時間が異なることがわかっているため、絶対時間的なものは存在しないということです。

しかし、我々の世界では過去、現在、未来が存在しています。

これは一体どういうことかというと、熱力学の第二法則、つまり温かいコーヒーは冷めることに起因するという話です。

その根幹は秩序だったものはどんどん無秩序になっていくというエントロピー増大の法則があるため。

ところが、それ以外の物理法則においては、時間に前後の概念は存在していません。

つまり、エントロピー増大の法則があることで、過去、現在、未来が生まれたというわけ。

で、人間はエントロピー増大の法則によって生み出された過去を知ることで、現在を認識しているという感じ。

それが時の流れとして、つまり時間として感じていることなのではないかという話。

また、この宇宙自体は、特殊な状態というか、たまたまエントロピー増大の法則が成り立つ宇宙だっただけで、エントロピー増大の法則が成り立たないというか、そもそもエントロピーにも時間の前後は存在しないという考えです。

個人的な時間概念

自分の場合は、時間について著者とは少し違った考えを持っています。

時間は存在しないという考え方については、ほぼ一緒で絶対時間というのは存在しないかなと。

で、「時間とは、何が状態が変化した時に付随的に発生するもの」という感じです。

時間そのものが存在するのではなくて、状態が変化する(本書の中だと出来事という表現が近い)と、時間が発生するという感じ。

投げたボールが進んでいくのは、時間が経過したからではなくて、ボールが進んだから時間が経過したことがわかるということです。

まあ、自分は物理学者でも無いですし、普通の一般人なので、特に数式とかそういうのは無いですが、なんとなく20年ぐらい前からそんな風に時間を捉えています。

時間を捉えたから人間が世界を制した理由かも

個人的に本書を読んで感じたのは、人間の時間概念というか、人間が時間を過去、現在、未来として捉えることができたことが、人間が世界を制した理由なのかもしれないと思いました。

現在の人類はホモ・サピエンスという種です。

昔は様々な猿人や原人がいましたが、ホモ・サピエンスが世界を席巻し、人間が生まれました。

つまり、このホモ・サピエンスが世界を席巻できた理由が、時間を捉えることができたからではないか?という話。

過去、現在、未来を認識することができると、過去の経験が蓄積でき、成長することができます。

また、過去の経験などから未来を予測し、現在の行動を決めることが可能です。

この経験と成長、未来予測がホモ・サピエンスの特徴だったのでは?というのが個人的な推測。

これは人間の脳の話で、骨からはわかりません。ですので、ホモ・サピエンスがなぜここまで広がったのかは、永遠の謎かなとは思います。

ですので、答えは無いのですが、個人的には時間概念を生み出した脳の進化こそが、ホモ・サピエンスが世界を制した理由じゃないかなと今は思っています。

個人的なメモ

本書からいくつか個人的なメモも兼ねた引用。

物体は、周囲の時間を減速させる。地球は巨大な質量を持つ物体なので、そのまわりの時間の速度は遅くなる。

物が落ちるのは、この時間の減速のせいなのだ。惑星間空間では時間は一様に経過し、物も落ちない。落ちずに浮いている。いっぽうこの地球の表面では、物体はごく自然に、時間がゆっくり経過するほうに向けて動くことになる。

一番興味深いというか、世界の見方を変える言葉は「物が落ちるのは、この時間の減速のせいなのだ」という点かなと。

時間がゆっくり経過するほうに向けて動くというのは、なかなか頭では考えにくいですが、見えている世界とは別にもう1つ空間を考えると、少しわかりやすいのかなとは思いました。

過去と未来、原因と結果、記憶と期待、後悔と意図を分かつものは、じつは、世界のメカニズムを記述する基本法則のどこにも存在しない。

ニュートンの力学的世界の法則も、マクスウェルが導いた電磁気の方程式も、重力に関するアインシュタインの相対性理論の式も、量子力学のハイゼンベルクやシュレディンガーやディラックが導いた方程式も、二〇世紀の物理学者たちが確立した素粒子に関する方程式も、どれ一つとして過去と未来を区別することはできないのだ

これらの言葉が言ってしまえば、時間は存在しないという言葉の論拠になっています。

この世界の基本方程式に時間の矢が登場するのは、熱が絡んでいるときに限られる

これがいわゆる熱力学の第二法則であり、エントロピー増大の法則です。

過去と未来が違うのは、ひとえにこの世界を見ているわたしたち自身の視界が曖昧だからである。

量子の世界では、我々が見ている世界とは法則が大きく異なるという話。

一番の違いは重力で、量子の世界は重力はあまりにも小さく、ほぼ影響を与えていません。

しかし、マクロな視点では重力の影響が非常に大きい。わかりやすい例で言えば、地球から宇宙に飛び出すには重力加速度を越える必要があります。

それ以上の加速が無いと地球に落ちてしまうからです(大気圏の摩擦の話とかは、とりあえず割愛)。

そして、この重力と量子の世界をつなぐ理論を物理学者の方たちは探しています。

著者はループ量子重力理論によってそれが解決できるとしていますが、実際にループ量子重力理論が正しいかどうかは、まだ未定です。

なので、このあたりは、あくまで著者が考える世界観として読み解いた方が良いのかなとは個人的に思います。

といっても、自分は他の理論とかについて別に詳しくないので、どれが有力とかはよくわかってないのですが。

ただ、少なくとも本書を読んでループ量子重力理論については、かなり興味が湧きました。

わたしたちに馴染みのあるスケールでは、過去と未来に挟まれた「拡張された現在」はほんの数ナノ秒で、ほぼ感知できないくらい短く、そのため「押しつぶされて」薄く水平な帯になっているからだ。通常わたしたちはこの帯を、但し書き抜きで「現在」と呼んでいる。

現在とは何かについても、いろいろと考えたいなとは個人的に思いました。

本書では数ナノ秒という表現がありますが、そもそも現在は存在しない可能性もあるのでは?とも思います。

あくまで、我々が考える現在という概念が存在しないという話です。

なぜなら、時間を極限まで小さくしていっても、正確に今を決めることができないのではないか?と個人的に思っているため。

点を決めようとすると、他のパラメータがズレてしまうみたいな感じ。まあ、あくまで個人的にですけど。

さらに「重力場」というものが存在する。この場は重力の源であるとともに、ニュートンの空間や時間を織りなす素材、この世界のほかのすべてのものを描くための布地でもある。時計はその布地の広がりを測るための装置であり、長さを測るための計器は、その布地の広がりの別の側面を測る素材の一部なのだ。

この言葉は自分が考えている時間概念に近いなという風に感じました。

時計で計った時間は「量子化」されている。つまり、いくつかの値だけを取って、その他の値は取らない。まるで時間が連続的ではなく、粒状であるかのように。

重力場にいては、最小の時間「プランク時間」が存在するという話。また、最小規模は「プランク・スケール」と言うそうです。

プランク時間については非常に興味深いなと。エネルギーについても階段状になっていて、そこは滑らかな直線ではありません。

つまり、この世界の根幹は、言ってしまえばデジタルに近いということ。ちょっと表現が雑かもしれませんが。個人的に量子力学を最初に学んだ時に大きな衝撃を受けたことを今でも覚えています。

この世界を出来事、過程の集まりと見ると、世界をよりよく把握し、理解し、記述することが可能になる。これが、相対性理論と両立し得る唯一の方法なのだ。この世界は物ではなく、出来事の集まりなのである。

重力と量子の世界の統一について語っている言葉の一つ。

世界を出来事、過程の集まりとして捉えれば、統一理論ができるという話。

わたしたちは、物ではなく変化を調べることで、この世界を理解する。

この言葉も自分が認識している時間の感覚ととても近いと感じました。

ある相互作用によって粒子の位置が具体化すると、粒子の状態が変わる。また、速度が具体化する場合も、粒子の状態が変わる。しかも、速度が具体化してから位置が具体化したときの状態の変化は、その逆の順序で具体化したときの状態の変化と異なる。つまり順序が問題で、電子の位置を測ってから速度を測ると、速度を測ってから位置を測ったときとは違う状態に変化するのだ。  これを、量子変数の「非可換性」という。

個人的には、この説明が現在というものを捉えるときにも発生するのでは?と思いました。

なので、現在を決めることができないという話。

過去の痕跡があるのに未来の痕跡が存在しないのは、ひとえに過去のエントロピーが低かったからだ。ほかに理由はない。なぜなら過去と未来の差を生み出すものは、かつてエントロピーが低かったという事実以外にないからだ。

エントロピー増大の法則によって過去が生まれるという話。

ほかにもたくさんあるのだけれど、きりがないのでこのあたりで。

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