評価
☆5/5
3.11の7年前、2004年の作品。コメディ映画ながら原発についてしっかり議論されていて、勉強になりつつ楽しめる作品。これは良作というか傑作と言っても良い気がします。笑い話なはずだったのに、3.11によって笑い話にならなくなってしまった現在において、多くの日本人に観て欲しい作品です。
話としては
都の財政難を解消するため東京都知事は東京への原発誘致案をぶち上げる。自分たちが使う電力に対するリスクは自分たちで負い、さらに補助金などで財政再建するという考えだ。反対派、推進派がぶつかり合い東京原発の是非を問う。そんな中、プロトニウム燃料が極秘裏に日本で搬入され、プロトニウム燃料を載せたトラックがジャックされてしまうのだった・・・。
という感じ。
見どころ
一番の見どころは、原発推進派と反対派の議論でしょう。様々な観点から原発のメリット、デメリットについて語られています。
当時としては正直ネタ的な内容ではありますが、今観るとネタになっていないところが興味深いです。また話が進んでいくにしたがって、なぜ都知事が原発誘致案をぶち上げたのかの真相がわかってきます。
ストーリーとしては原発議論と並行して、プロトニウム燃料のトラックジャックがあり、いささか強引なところはあります。ただ、原発を語る上でプロトニウム燃料の危険性について取り上げないわけにはいかないので、映画としてメッセージ性を強く出すための設定としては良かったと思います。
公開当時はそこまでではなかったと思いますが、3.11の東日本大震災によって大きく化けた映画。
原発を考える良いきっかけになる作品
注意点としては当時と現在では状況がいろいろと変わっているので、すべての情報を鵜呑みにしてはいけないことかなと。ただ、原発を考える上できっかけとなる作品だと思います。
実際はどうかわからないが
本作の監督・脚本を手掛けた山川元監督は本作を作ったことで干されたというレビューが書かれていました。真実はどうかはわからないのですが、まあ原発に対して疑念を抱かせる本作は、原発を協力に推進していた日本にとっては、あまり良い気はしなかったでしょう。
ただ、本作がこうして世に出ていることを考えれば、圧力と呼べるものがあったのかどうかは不明。まあ、スポンサーなどが配慮した可能性はあります。特に広告代理店など。
原発反対ではないが
3.11によって原発安全神話は大きく崩れ、教科書で見たチェルノブイリのような立入禁止区域がまさかの日本でも起きてしまいました。原発を運用する以上、事故は0ではありません。今後も想定外の事態によって事故が起きないとは言い切れないでしょう。
しかしながら、電気に頼った生活から抜け出すのはほぼ不可能になってしまった現在。原子力は外せない電力です。火力発電はCO2の問題から推進しにくいですし、水力や風力ではすべてを賄うことができません。
電力の難しいところはピーク時を確保できないといけないため、かなり余裕が必要ということ。夏の冷房や冬の暖房で大きく電力を必要とする際にダウンしては多くの人が困るからです。また、エコという観点から、紙を減らすという意味でもデジタル化は今後益々進むでしょう。
個人的には原発反対ではないですが、原発のリスクについてはちゃんと考えておきたいと思っています。どんな物事でもそうですが、悪い点がまったくないということは基本的に無いかなというのが個人的スタンスです。
プラスもあればマイナスもあり、総じてプラスなら採用を検討するという感じ。プラスやマイナスについては人に寄って価値観が異なるため、同じ事象であってもプラスと考える人もいれば、マイナスと考える人もいます。
それらをまとめることは難しいかもしれませんが、大切なことは原発について多くの人が考え続けることなんじゃないかなと。考えることを止めてしまったら、そこで終わってしまうからです。
これは正義とは何か?という議論とも近いところはあるかなと思っています。個人的な結論を言ってしまえば、正義は1つではないということです。同じように原発についても1つの側面からだけで判断できるものではありません。ちなみに、正義についてはマイケル・サンデル先生の「これからの「正義」の話をしよう」や「正義の教室」が面白かったです。
そんなわけで現代日本で生きていく上では、原発は切っても切れないものなので、心のどこかで少しだけ原発のことを考えていきたいなと個人的に思いました。