
評価・レビュー
☆4/5
東京天文台(現・国立天文台)に勤務していた杉崎恒夫氏が、退職後も書き続けていた詩を集めたもの。
日常の中のありきたりな物事を、違った視点で描かれていて、とても興味深かったです。
思わずニヤリとしてしまうものもあれば、晩年に詠まれたのでしょうか、死生観を感じさせるものまで、様々あります。
きっと共感できる詩があるかなと。
普段詩集とかめったに読まないのですが、改めて詩の面白さを感じました。
以下は、本書を引用しつつ、個人的なメモ。
ポストは指を噛んだりしない
不実なる手紙いれてもわが街のポストは指を噛んだりしない
ポストを動物に例えているのが面白いなと思いました。
たしかに、ポストの口って、ローマにある真実の口みたいだなと思うこともあって、ちょっとだけ強さがありますよね。
あと、昔の円筒のポストって人っぽくも見えたなあって。
怖い夢
一晩中怖い夢みていたぼくをアリバイとして信じませんか
楽しい夢ではなく、怖い夢というのが自分的にツボでした。
ちょうど悪夢を見た後ということもあって、それも影響しているのかもしれないなと。
朝のホームは魔術師
エスカレーターにせり上がりくる顔顔顔 朝のホームは魔術師である
これも面白い視点だなあと。
通勤しているときは、たぶん気づきにくいというか。
立ち止まって見ていると、ちょっと滑稽な感じはありますよね。
なんか自分はロボット生産工場のようなイメージを持っていて、そうではなく魔術師という感性が良いなあと思いました。
悲しみの隠しファイル
どうしても消去できない悲しみの隠しファイルが一個あります
個人的に本書で一番グッときた言葉。
隠しファイルというのが絶妙なチョイスだなあと。
自分の中にも、悲しみの隠しファイルがあって、それとリンクしたというのもあります。
というか、多くの人がそうだと思うんですよね。
楽しそうに、明るく笑顔に見えていても、実際には悲しみの隠しファイルがあるんだろうなあって。
そんなことを思いました。