ハマトンの知的生活のすすめ エッセンシャル版 – あらゆる知的活動は、十分な肉体的基礎があってこそはじめて可能になることを忘れてはならない。

投稿者: | 2024年10月3日

評価・レビュー

☆5/5

美術雑誌The Portfolioの編集責任者でもあったイギリスの文筆家 フィリップ・ギルバート・ハマトン(以下、ハマトン)が1873年に刊行した『知的生活』から、現代にも通ずるような言葉をまとめた本です。

知的生活とは、ざっくり言えば、学問を探求する者たちの学問への姿勢や生活のあり方こと。学問というと研究者というイメージがあるかもしれませんが、研究者だけでなく、一般の人を含む言葉です。

なので、学問を探求する者という言葉で個人的には表現しました。

本書では具体的な方法論というよりは、大枠での大きな方向性を示しているという感じです。

その根幹は、「知的生活には身体の健康が大切」というもの。

例えば、

あらゆる知的活動は、
十分な肉体的基礎があってこそ
はじめて可能になることを
忘れてはならない。
知的創造活動と
心身の状態との間には
密接な関係がある。

というような感じです。

同じようなニュアンスのことが、様々な視点から語られています。

海外というか、アメリカなどだと、ビジネスマンの方たちが運動をしていることが多い印象です。

映画やドラマなどでは、よくそういうシーンが出てきますよね。

単純に体を鍛えたいという考えもあるかもしれませんが、その根底には仕事でパフォーマンスを発揮するには、肉体も大切という考えがあるからだと聞いたことがあります。

極論だとは思いますが、アメリカなどでは太っていると、自己管理能力が低い人間で、仕事ができない人間だと思われるという話もあるほどです。

最近ではルッキズムなどの話もありますし、状況は変わっているのかもしれませんが。

ただそれでも、体調不良の時って、単純に仕事がはかどらないですよね。

なので、身体的な健康というのは、仕事をする上で大切だと改めて実感しました。

以下、本書から個人的な引用メモ。

どこでも学べる

知的な人にとっては、
どこにいてもそこが最高の学校である。
自分のまわりに存在する
人間、書物、動物、石、大地、
すべてが教師になり得る。

都市部においては今や様々なところで、英語などの外国語を目にすることになりました。

それってちょっとした勉強にもなるのかなって。知らない英単語が出てきたら、親切にも訳語がついているわけで(実際には逆ですが)、そういうのも学びの1つかなって思います。

長期休暇じゃ一年働けない

秋に二週間ほど旅行して英気を養い、
それで一年分の健康を蓄えようとする人がいるが、
それは愚かなことだ。
一週間の英気はその週のうちに補っておかなければならない。

長期休暇に真っ向から対立するわけではありませんが、言わんとしていることは非常によくわかります。

二週間休んだとしても、結局、一週間仕事したら、またいつもと同じように疲れるという話です。

なんか、長時間休むと、そのときはすごくたくさん働けるように感じるのですが、実際にはそうじゃないですよね。

個人的には、一時期、土日以外の祝祭日は休まず仕事をしていた頃があります。

そうすると常に一週間単位で仕事を組めて、ローテーションもしやすいので、結構働きやすいなと感じました。

今だと、理想的には週休三日とかなのかなと思ったりもします。

健康維持は投資

重要な知的労働を成し遂げるためには、
長年にわたって健康を維持しなければならない。
だからこそ、知的生活者にとっては、
健康を維持するために払う犠牲は最高の投資なのである。

健康維持は投資であるというのは、良い言葉だと思いました。

本書では基本的に身体的な健康の話がメインですが、精神的な健康も個人的には大切な気がしています。

自分はメンタルを病んでしまって仕事を辞めることになりましたが、その時に人生で初めてカウンセリングを受けました。

正直、最初は眉唾もので、カウンセリングで何かが変わるとは思っていなかったです。

ただ、何回か通うことで、心理的に大きく変化していき、生活も変わりました。

参考 → カウンセリングを馬鹿にしていた時期が私にもありました | ネルログ

今思うと、これも健康への投資なのかなと思います。

また、今ではもっと多くの人がカウンセリングを受けたほうが良いのではないかなと感じています。

どうしても日本だと心療内科やカウンセリングに対して、イメージが悪いのですが、仕事や生きるのが辛い、しんどいと感じていたら、そういう時があったら、カウンセリングを試してみて欲しいです。

1回では効果はほとんど出ませんので、複数回通うのが良いですし、ちょっとお値段も高いですが、通う内に最初と最後では自分の性格が変わってしまうほど効果があると思います。

正確には本来の自分を取り戻せるというのが正しい表現ですね。

見積もり重要

物事を完成させたり成就させたりするために最も重要なことは、
それに必要な時間を正確に見積もって計算することである。
その計算を誤ることほど時間の浪費になることはない。
何事も不完全にしか習得できずそれが役に立たないのは、
まさにそこに根本原因があるのだ。

プロジェクトが失敗する原因の多くは、見積もりの甘さであると個人的には思っています。

見積もりが甘いと、スケジュールが遅れ、その遅れを取り戻すためにプロジェクトに歪みが生じ、あとは崩壊していくという感じ。

IT業界あるあるで言うと、営業とエンジニアの対立がありますね。

営業の方はシステム開発をしたことが無いため、見積もりが甘いことが多いです。

そんな状態で仕事を受けてしまうと、エンジニアが苦労します。そしてデスマーチに突入するというわけです。

すべては見積もりの甘さに起因しています。

これは営業の方だけでなく、経営陣からの要望でも良くある話です。

経営陣がシステム開発をした経験が無いと、見積もりが甘くなり、無茶なプロジェクトを立ち上げてしまうということ。

結果、バグが多くなったり、システムがそもそも完成しなかったりします。

ITを使う企業においては、最低でも経営陣にIT経験者が必要かなと。

ただ、それを実現するのはかなり難しくて、多くの場合、ITを知らない人が上に立ってしまうんですよね。

これはITだけじゃなくて、サイエンスなどもそうかなと思っています。

マスメディアで働く人の多くは、サイエンスを知らない人が多く、ちょいちょいサイエンス系で意味不明な記事が出ることがありますよね。

昔は似非科学を、平気で堂々と発表していました。

内容としては高校の物理・化学レベルのことなのに、知らないので間違っていることに気づかないわけです。

個人的には、マスメディアにも理系の人材をちゃんと入れてほしいなとずっと思っています。

完璧なものは人間には作ることはできません。

ただ、何も知らない人が知ったかぶりをしてプロジェクトを見積もったり、公器と言われるような組織で高校生でも気づく間違いを堂々と発表するのは、いかがなものかなと。

本書でも何度か経験についての話が出てきますが、その分野での実務経験というのは本当に大切だと個人的は思います。

昔、頭でっかちというと、理論ばかり言う理系の学者みたいなイメージがありましたが、個人的には逆だと思っていて、理論などを知らない人が間違っていることを認めないことの方が、頭でっかちなんじゃないかなって思います。

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