
評価・レビュー
☆5/5
超合理的な人間を経済人というのですが、実際には常に合理的に動く人間はいなくて、その合理性を破壊するのが人間の感情という話。
行動経済学の入門書と銘打つだけあって、かなり専門的な感じで、幅広く、事例もたくさん紹介されていて、とても勉強になりました。
実際に紹介されている内容について、自分でも考えてみると、確かに感覚で動いているところがあるなあと納得。
そのような感覚というか、直感的で経験則に基づいた判断や問題解決のプロセスをヒューリスティクスと言うそうです。
ヒューリスティクスは簡便法とか言われたりして、いちいちすべてを真面目に調査し検討していては、時間がかかりすぎるので、過去の経験などから、きっとそうだろうという感じで判断してしまうこと。
少しネガティブな感じで書きましたが、ヒューリスティクス自体は悪いことではなくて、むしろヒューリスティクスを使わないと効率が恐ろしく悪くなります。
例として野球について書かれていて、飛んできた打球の落下位置を判断する方法などがあります。
確かに、打った打球の速度、角度、風向きなど、すべてを計算していたら、間に合いませんから。
そういうヒューリスティクスに人間は頼っているというか、無意識にヒューリスティクスを使って判断しているということ。
ヒューリスティクスは必要なのですが、それが合理的な判断を鈍らせることがあるという話です。
非常に興味深く、面白かったです。
以下は、本書を引用しつつ、個人的なメモ。
時間的な隔たりが想像を難しくする
喫煙や飲酒などの習慣がなかなか止められないのは、行為時点とその結果が現われる時点とが時間的に大きく隔たっており、行為する時点では、長い間たった後にどんな結果が引き起こされるのかについて想像するのが難しいことが原因の一つである。
この話を読んで、個人的に頭に浮かんだのは、トロッコ問題と歩道橋問題です。
トロッコ問題だと決断できても、歩道橋問題だと決断できないのは、行為と結果が時間的に離れている、また距離的に離れていることが原因なんじゃないかなと個人的に思っています。
参考 → トロッコ問題を時間基軸理論で考えてみる | ネルログ
あくまで個人的にですが、距離についても時間変換することで、価値を比較することができると考えていて、それを時間基軸理論と読んでいます。勝手に(笑)
何が言いたいかというと、時間を軸に考えると、あらゆる物事を比較でき、また時間を軸に考えることで迷ったときの選択がしやすくなるんじゃないかなという話。
偶然手に入れたものでも価値を感じる
偶然手に入ったものである。このような財に対しても保有効果が働くことは、長年の保有による愛着では説明できない(ノヴェムスキーとカーネマンは「瞬時的保有効果」と呼んでいる)
保有効果とは、持っている物について価値を高く評価することです。
で、偶然手に入ったものでも、手に入った瞬間に保有効果が働くという話。
自分の場合ですが、比較的昔から、物に対する執着は高くなくて、あんまり保有効果を感じていないところがあります。
ゲーム機とか本とか、サクッと人にあげちゃうんですよね。
特にそこにこだわりが無いと言うか。歳を取ってから余計にそう感じるようになりました。
Macは無いと仕事にならないので、無くなったら困りますが、まあ、環境をローカルに依存していないというか、ローカルにファイルを極力置かないようにしてるので、新しいの買えばすぐ環境整うし、持っているMacじゃなきゃ絶対ダメという感じでもありません。
と、何が言いたかったかというと、時代が変化していて、自分と同じような考えの人も増えてるんじゃないかなって。
なので、保有効果については、昔実験したときと今では、多少違った結果になるかもって思ったりしました。
物語(ナラティブ)が必要
シェイファー、シモンソン、トヴェルスキーは「理由に基づく選択」理論を展開している。選択や決定をするには、その選択肢を選んだ納得のいく理由やストーリーが必要であり、十分な理由があって選択が合理化できればたとえ矛盾があったとしても構わないのである。
ナラティブなんて言葉が少し前から使われるようになりましたが、まさにこのことですね。
人は物語があると納得してしまうのは、人間が意味を付与する生き物なのかなと思っています。
で、意味を付与するというのは、個人的に理解と関係していると思っていて、理解するというのは不安や恐怖などを払拭することができるため、人は理解しようとするのかなと。
理解することで安心できると言った方が良いかもしれません。
なので、理解できないことについては、ネガティブになってしまうというか。
物語は、まさに理解を助けるというか、人に理解を促すツールな気がしています。