孫子・三十六計 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 – 入門書としても、より深く知りたい人にもおすすめ

投稿者: | 2024年10月8日

評価・レビュー

☆5/5

孫子から要点をピックアップしたものと、三十六計について取り上げた解説書です。

個人的に孫子については、いくつか本を読んでいたのですが、それでも知らない情報があって楽しめました。

三十六計については、「三十六計逃げるに如かず」の言葉の元になっていることぐらいしか知らず、初めて触れたのですが、こちらもなかなかに面白かったです。

どちらの内容にしても、やはり解説が良かったのが大きいかなと思います。

わかりやすいというのもありますが、最初に孫子があり、孫子と他の兵法書の違い、時代背景などを交えつつ、三十六計についても孫子との関連性に少し触れつつという感じで、解説の軸がしっかりしていたので、読んでいて一貫性を感じました。

孫子・三十六計の入門書としても良いですし、孫子については他の解説書とはまた違った視点での解説がいろいろとあって、孫子や兵法書についてもっと知りたい方にもおすすめ。

以下は本文から引用しつつ、個人的メモ。

算多きは勝ち、算少なきは勝たず

夫れ未だ戦わずして廟算して勝つ者は、算を得ること多ければなり。

孫子から読み下し文の引用。

孫子の時代では、戦争前に廟算という会議があったそうです。で、その廟算で勝算が多ければ戦争で勝利を得られるという意味。

このあとに、廟算で勝算が少なければ戦争には勝てずと続き、

算多きは勝ち、算少なきは勝たず

と続きます。

これは、戦争に限った話ではないかなと。

ビジネスにおいても、プロジェクトの成功要因が多ければプロジェクトは成功しやすいですし、逆にプロジェクトを成功に導く算段がなければ、失敗するでしょう。

つまり、戦争にしてもプロジェクにしても、それをする前に成否がある程度決まっていると言えるのかなと。

個人的に孫子の中でもかなり好きな言葉です。

百戦百勝は最善ではない

百戦百勝は、善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。

孫子の読み下し文の引用。

いろいろと戦争における軍隊運用について書かれた後の締めの言葉です。

百戦百勝は最善ではないと言い切り、その後に戦わずに相手を屈服させるのが最善だと語ります。

これも個人的に好きな言葉。

戦争というのは戦って勝つのが最善だと思いがち。

でも実際には、戦争をすれば大きな損失がでます。それは将軍や兵士、武器などの装備品、お金や兵糧など、勝ったとしても失うものも多いのが実情です。

だからこそ、戦争をせずに相手を傘下におさめるのがベストというのが孫子の根本にあります。

兵法書というと、戦での戦い方や勝ち方みたいなイメージが強いです。もちろん孫子の兵法書にも、戦についていろいろと書かれてはいるのですが、それは最善策ではないという孫子の考えは、非常に共感できますし、孫子の兵法書がずっと読みつがれている理由でもあるのかなと個人的には思いました。

兵力を分断せよ

第二計「囲魏救趙」(魏を囲みて趙を救う)  充実した敵兵力を避け、敵の後方を攻撃する形勢を示して、敵兵力の分断を図る。

三十六計の言葉です。

ここで出てくる魏と趙は、中国の春秋戦国時代の魏と趙のこと。人気漫画キングダムに出てくる魏と趙です。

時代的にはキングダムよりも少し前の時代になります。

話としては趙が魏に攻められ本国が窮地に陥ったとき、同盟国の斉が救援に来るのですが、趙の本国ではなく魏の本国を攻めたことで、魏は本国を守るために趙から軍隊の一部を本国へ移動させます。その分割した魏の軍隊が伏兵にあい全滅し、趙が救われたという話。

兵力を分け、各個撃破するというのは、兵法の基本です。

その分断方法として、相手の急所である本国を狙うということ。さらに言えば、本当に攻める必要はなく、攻める姿勢を見せるだけで良いというのも、ポイントかなと思います。

何も正面からぶつかって戦う必要はないのです。

典型的な陽動作戦

第六計「声東撃西」(東に声して西を撃つ) *  東を攻めるように見せかけて声を上げ、実は西を攻める。

三十六計から引用。

これはとてもわかりやすいですね。基本は囲魏救趙と似ていると思います。

結局のところ、正面から正攻法で戦うのは、相当な兵力差、実力差があるときだけで、様々な手段を用いて、より勝ちやすくするというのが戦においては重要と言えそうです。

賊をとらえるなら王をとらえよ

第十八計「擒賊擒王」(賊を擒うるには王を擒えよ)  賊を捕らえるには、まずその王を捕らえよ。  唐の詩人杜甫の「前出塞」詩の、「人を射るには先ず馬を射よ。賊を擒うるには先ず王を擒えよ」に基づくことばです。

三十六計から引用。

内容としてはそのままの意味ですが、その出典が杜甫というのは初めて知りました。

日本だと「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」の元になっている言葉ですね。

杜甫というと詩聖ということはうっすらと覚えていたのですが、どんな詩を詠んでいたのかまでは、記憶にありませんでした。

ちょっと調べてみるとWikipediaには、

社会や政治の矛盾を積極的に詩歌の題材として取り上げ、同時代の親友である李白の詩とは対照的な詩風を生み出した。

と書かれていて納得。

杜甫にもかなり興味が湧いてきました。

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