ドラマ ダハード ~叫び~ – 宗教対立、カースト制度、女性差別など インド社会を風刺した刑事サスペンス

投稿者: | 2023年5月23日

評価・レビュー

☆5/5

駆け落ちすると手紙を残し行方不明になった娘を探すことになった警部補 アンジャリだったが、公衆トイレから花嫁衣装を着た女性の自殺事件に遭遇し、それぞれの事件な同じような状況であることから、連続殺人事件ではないかと推測し犯人を追うという物語。

大枠の話としては、まあよくあるパターンですが、本作が素晴らしいところは魅力溢れる警部補アンジャリ氏というのもありますが、

  • ヒンドゥー教とイスラム教の対立
  • インドに深く根付いているカースト制度
  • もはや物としか考えられていない女性への差別

をストーリーに組み込んでいる点。

インドは今まさに社会として成長しているところなので、都市部などでは考え方も変わってきているのかなとは思いますが、古くからある考え方や文化を変えるのはなかなか難しいのだろうなと感じました。

また、それらの要素が本事件ともうまく絡み合っていて、日本人の自分としては想像しにくい犯罪手法というか、考え方が非常に興味深かったです。

非常に面白く一気に8話を続けて見てしまいました。

ヒンドゥー教とイスラム教の対立

きっかけとなるのは、失踪した娘の捜索なのですが、そこではヒンドゥー教とイスラム教の対立が描かれています。

インドではヒンドゥー教を信仰する人が多く約8割程度で、イスラム教は15%弱、のこりがその他の宗教だそうです。

かなり宗教的な対立は昔からあるらしく、本作では娘がイスラム教を信仰する男性に嫁ぐことでイスラム教に改宗するのを許すなとデモをしている人々が描かれています。

また駆け落ちは本人の意思だから失踪ではなく捜査できないと警察に言われた父親が、このデモの人たちを介して、娘が駆け落ちした相手がムスリム(イスラム教徒)だという話をしたら、権力者が警察に掛け合いなかば強制的に警察が捜査をすることになりました。こういう社会的な力関係も興味深いなと。

ただ、宗教の対立は昔からある問題で、これは導入にすぎず、以降はそれほど取り上げられません。

インドに深く根付いているカースト制度

インドというとカースト制度を歴史の授業で学びましたが、現在のインドではカースト制度による差別はインド憲法で禁止されています。

本作でもその点について、何度もカースト制度についての話題が登場しますが、やはり都市部から離れると根強くカースト制度の考え方が残っていて、カーストの階級が異なると結婚が難しかったり、カーストの階級が低い人に家の敷居を跨がせたくないという人が登場したりします。

これはインド社会が過渡期にある問題で、今まさに変えようとしている、変わろうとしていることを表現しているのだろうなと感じました。

主人公のアンジャリは、名前を以前に変えており、どうも名前からカーストの身分がわかってしまうようです。

日本で言えば部落問題で数十年前までは公に語られていたことで、結婚すらできないという状態でしたが、現在ではかなり差別意識を持っている人は減っているのかなと思います。

もはや物としか考えられていない女性への差別

本作で個人的に驚いたシーンとして、娘が失踪して連絡が取れなくなったのに母親が重荷が取れてせいせいした的な表現をしたり、女性は結婚しなければならず非婚の女性はかなり蔑まれるといった表現がよくでてくる点です。

感覚的にですが、母親像というと子どもたちへの無償の愛というのが、ドラマや映画などで描かれることが多い印象。母は強し的な感じ。ところが、インドではまだまだそういう状況では無いようです。

また、働く女性というのも忌み嫌われていることがわかるシーンが随所に描かれています。

これはインド社会におけるもっとも新しく直面している問題なんだろうなと感じました。で、今の段階だと強い女性像というのが求められているようにも感じました。単純に意思が強いというよりは、結構ガタイもある男性に引けを取らない女性像を作りたいのかなと。

というのも、同じAmazonオリジナルのドラマ 運命の螺旋でも、強い女性像を押し出していて、主人公の印象がちょっと被りました。

ちょっと話がそれてしまいましたが、言いたかったのは、

  • ヒンドゥー教とイスラム教の対立
  • インドに深く根付いているカースト制度
  • もはや物としか考えられていない女性への差別

というインドが抱える問題が時系列として描かれ、その比重も新しいものほど大きく取り上げられているのかなというのが個人的な感想です。

人間模様もまた

前述した問題に対して、本作ではさらに人間模様も組み込んでいます。

主人公の警部補 アンジャリはまさに求められている女性の理想像です。上司の署長はその理解者ながら妻がどっぷり昔の風習に使っているため狭間で揺れている存在になります。

また、同僚は賄賂で降格されたのですが、署長の上司に取り入っていて、昔ながらのインド人として描かれているのですが、妻が妊娠したり、アンジャリや署長などと一緒に働く中で、少しずつ変化していくという役どころ。これが今のインドの多くの人を表しているのかなとも思いました。

さらに犯罪の手口も

オチを書いてしまうと面白みにかけるので書きませんが、犯人が犯罪に及ぶ手口というのも、前述したインドの問題だったり、社会情勢を上手く使ったものになっています。

そもそも本作では犯人が序盤で明らかになっているので、ミステリ的な謎解きはそこまで無いのですが、この犯罪の手口というか、どうやって犯人が女性たちを騙すのかについては、日本の文化がスタンダードだと思ってしまっている自分には一切想像ができませんでした。そうかあと、唸るしか無かったですね。

という感じで、大枠の設定はそこまで奇抜ではないのですが、様々なインド社会の問題を取り入れつつ、変化しているインドを表現し、さらにサスペンスものとしても面白く、個人的には非常に楽しめた良作です。

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